クォ・ヴァディス ★★★

Quo Vadis
1951 スタンダードサイズ 171分
DVD

■実質的な主役は暴君ネロで、これを演じたピーター・ユスチノフの融通無碍な演技がとにかく圧巻。明らかに当時のハリウッドの演技セオリーとは異なる、70年代以降くらいのニュアンス演技を自在に駆使しており、観ているとニューシネマ以降の映画かと錯覚してしまうほど。

■ローマの将軍とクリスチャンの女とのメロドラマをメロドラマの名手マービン・ルロイに託した形だろうが、明らかに暴君ネロの悪行の数々のほうが活き活きしている。主演のロバート・テイラーとデボラ・カーが演技的に精彩が無いのが問題なのだが、ピーター・ユスチノフがちょっと凄すぎたのだ。芸術好き(下手の横好き)でローマを自分の好きに作り変えようと街に放火してしまうし、その批判をかわすためにキリスト教徒を犯人にしたてて公開処刑するという無軌道ぶりが、それでも単なる狂気ではなく、ネロの人間性の発露として念入りに描かれる。このあたりは本作の美点である。

■一方、ネロの寵愛を受けていたペトロニウスがあまりのことに憤慨し、どうせ遠からずネロに殺されることを悟って、親友たちを招いた宴席で自害するという大芝居の見せ場も演劇的で非常に面白いが、これセシル・B・デミルの演出だったらもっと盛り上がるところだなあ。演じるのがレオ・ゲンというのがちょっと地味だなあ。

■クライマックスはコロッセオでのキリスト教徒大虐殺の場面で、ライオンに食わせる残酷シーンもこの時代としては多少やりすぎ感がある。血は出さないけど、このあたりは第二班の仕事だろう。しかも、デボラ・カーは引き出されるけど、闘牛を見てるだけというあたりも作りが甘い。特にこの場面ではスタンダード撮影の画角の限界が露呈していて、その後の70ミリ映画などに比べると明らかにスペクタクルが足りない。それに比べると、ネロの最期はしっかりと演技を見せるからこっちがどうしても勝つよね。

■ちなみに、廉価版DVDだったので、ブルーレイの高画質で観るともっと楽しいかもしれないな。
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