口裂け女2 ★★★☆

口裂け女
2008 ヴィスタサイズ 98分
DVD
脚本■寺内康太郎、佐上佳嗣
撮影■大沢佳子 照明■小川大介
美術■嵩村裕司 音楽■佐藤鷹
監督■寺内康太郎

■1978年の岐阜県、養鶏場を営む平凡な沢田家の三姉妹が、ある凄惨な事件を契機として崩壊してゆき、そして口裂け女の都市伝説を生むに到る様を丁寧な脚本と演出で描き出した小傑作。単純なホラー映画でも心霊実話テイストでもなく、堂々たる怪奇映画であるところに感動する。そのあり方は、おそらく楳図かずおの漫画に近い気がするし、最終的には口裂け女が女囚さそりに見えてくるという快作だ。怪奇映画ではあるが、テイストとしてはバイオレンス映画に近い気もする。

■一家5人の沢田家が残酷な事件に巻き込まれ、徐々に内側から崩壊してゆく過程は本当に怖く、実によく描かれている。斉藤洋介と橘ゆかりの父母が死に、三姉妹だけが残されてから本当の心理劇が始まるという構成も非常に上手く、それまでは非常に地味な存在だった川村ゆきえの存在感がせりあがってくるという演出も実に効果的。陰惨な事件を描きながら、飛鳥凛岩佐真悠子川村ゆきえの美人三姉妹映画という構図を透かしのように配置した設計の妙には感心するばかり。その中で3人の描き分けも着実だし、本当に寺内康太郎、上手い人だ。

■ある事件で顔に深い傷を負ってしまった三女が閉鎖的な地方都市のコミュニティの中で差別され孤立してゆく様子は痛々しいリアリティがあり、それがまるで尼崎事件のような家族内の潰し合いに発展する展開はスリリングであると同時にとても痛ましく、心を締め付けられる。前半のゆるいラブコメのようなエピソードが後半部分との鮮烈なコントラストを生んでおり、本当に残酷な脚本だ。

■振り返ると名場面も多く、中盤の襲撃場面のバイオレンス描写の切れ味は、日本映画でも指折りのものだろう。斉藤洋介の一撃の激烈なこと。そして、久しぶりに帰郷した先輩と会う前の夜に姉の働く美容院を飛鳥凛が訪れる場面のガラス越しの切返しのシーンは、涙なくして観られない名演出だ。クライマックスの三姉妹の食卓の場面も、もうあまりの残酷さに戦慄しつつ涙を禁じえない。

■今思い返していると、寺内康太郎の資質は、実はストイックなアクション映画に向いているのではないだろうか。もちろん、本作では、とてもシビアな怪奇映画であり青春映画として大成功しているのだが。

参考

▶これもなかなか味わい深い映画で、筋が良いのですよ。
maricozy.hatenablog.jp

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