サラの鍵 ★★★★

ELLE S'APPELAIT SARAH
2010 スコープサイズ 111分
DVD

■1942年、ドイツ占領下のパリで起こったフランス警察によるユダヤ人の強制収容事件である「ヴェルディヴ事件」を扱った問題作。ヴィシー政権下のフランスがナチスに迎合したフランスの恥部ともいえるユダヤ人迫害事件を発端に、その事実が現在に生きる人間たちに大きな影響を与える様を自在なタッチで描ききる傑作。もっとお涙頂戴的な映画を想像していたので、ちょっと衝撃的だった。ジル・パケ=ブランネールという監督、まだ若いのに技術的にもレベルが高いし、とにかく若くしてこんなデリケートな素材を取り上げるとは、いい度胸だ。

■衝撃的といっても残酷描写があるわけではないが、冒頭の屋内競輪場にユダヤ人たちが収容される場面から観客は一気に絶望的な世界、生き地獄に連れ去られる。この構成は、普通に考えてもこれしかありえないのだが、強烈に効果的。水も食べ物も与えられず、トイレも使用できない状態で閉じ込められ、目の前では悲観した女が飛び降り自殺するという極限状況に観客も追い込まれる。この場面、ほんとに怖い。そこからなんとか生き残った少女サラの半生と今の世界に生きるヒロインが時間を超えて繋がる様子はラストに静かな感動をもたらす。決してお涙頂戴には作ってないけど、深く静かに感動が押し寄せますよ、日本の映画関係者の皆さん!こういう風に作ればいいんですよ、これが作劇のお手本ですよ!

■終盤になってやっと登場するエイダン・クインが死期の近い父親から母の秘密を聞かされる場面は含蓄があり、「人には歴史があるんだよ」という一節が印象的。また、フランスでそんなことがあったなんてと驚く若い記者に、「あなたならどうしたと思う?」とさらりと捨て台詞のように問う場面も、そのさりげなさが良い。確かにコテコテの社会派映画だが、話術とか話法が非常に巧みで押し付けがましさが無い。凄い。

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