モンスターズ 地球外生命体 ★★★★

MONSTERS
2010 スコープサイズ 94分
DVD

■制作費130万円で作った自主映画みたいな宣伝が先行したせいで絶対損をしている怪獣映画の傑作。絶対130万円ではありえない映像の密度と完成度だ。そもそも秀逸な音楽を入れるだけでそれくらいかかっているはずだよ。素人がデジタルビデオで撮影して、自前でCGを合成したような素人の割にはよくできている映画といったレベルを大きく超えている。同じように宣伝された『スカイライン 征服』を観て、あまりの退屈さ芸の無さに辟易してしまったので、本作も同工異曲かと思っていたのだが、大きな誤算だった。

宇宙生物が定着してしまったメキシコの危険地帯を横断してアメリカへ戻ろうとする成り行きカップルの道中をリアルな演出と秀逸なVFXで見せるロードムービー。しかし、その道中で見えてくるものは、攻撃しなければ大人しい宇宙怪獣と、怪獣よりもアメリカ軍の空爆で壊滅した町々と死傷者の実情であった。世界中どこへでも出かけていっては戦争の種をばら撒き続けるアメリカへの強烈な皮肉をこめたこの作劇のリアリティと鮮烈な批評性がこの映画の肝だ。監督はメキシコ人かと思いきや、イギリス人なんだね。

■地球に定着してしまった宇宙怪獣の生態を描くことにも成功している点が怪獣映画としても秀逸で、傑作『クローバー・フィールド』にも全く劣っていない。どころか、映画としては本作のほうが凄い。ギャレス・エドワーズは本当に恋人同士の2人の俳優と少数クルーでロケ撮影を敢行、しかも台詞はアドリブ、脇役は現地住民に演じさせるという、信じがたい冒険的撮影を実行したが、そのため撮影監督も兼ねている。そして、撮影がまた絶品なのだ。撮影機器の性能向上のおかげもあるだろうが、被写界深度を浅くとったナイーブなタッチの映像がとにかく絶妙で、この男、撮影監督としてもやっていけるぞ。まあ、とにかく凄い才能なのだ。

■といった映画作りの凄い才能に比べると本業であるはずのVFXに関して逆に難をつけたくなる。宇宙怪獣のデザインはあまりにもタコ過ぎるだろうとか。まあ、ここはラブクラフト的と解釈してあげるのが大人の度量というものだろう。

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