ヘアピン・サーカス ★★★☆

ヘアピン・サーカス
1972 スコープサイズ 84分
DVD
原作■五木寛之 脚本■永原秀一
撮影■原一民 照明■森弘充
美術■樋口幸男 音楽■菊池雅章
監督■西村潔

■東京映画の安武龍プロデューサーの趣味性が全開し、西村潔の異能が炸裂した空前絶後の日本映画。カーアクションに性的な官能性を見出そうとする日本映画にはありえないテーマ設定で、乾いたアクション映画を展開する。完全に日本映画の伝統からは切り離された孤高の映画。

■事故でライバルを亡くしてプロレーサーを引退した自動車教習所の教師が教え子のブルジョア娘の挑発に忘れ去ろうとした胸の炎に再び火をともすが・・・という極めてシンプルなお話を台詞も削ぎ取って、首都高のカーチェイスのゲリラ撮影を前面展開して描き出すというアナーキーな映画作法。東宝混乱期の70年代当初ならではのものだ。

■主役にはプロレーサーを起用し、ヒロインもA級ライセンスを持つ江夏夕子を充て、カーアクション自体が主役という異様な体制で完成した本作、あまりに早すぎた映画だったようだ。

■正直、クライマックスのチェイスシーンはサスペンスの仕掛けが薄く、冗長に感じる部分もあるのだが、ラストの手首の場面など、西村潔の異彩が極まった名シーンだろう。とにかく、カッコいい。痺れる。カーアクションに耽美とエロティシズムを盛り込んだ、嬉しくなるほど変態でクールな日本映画だ。

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