キクとイサム ★★★☆

キクとイサム
1959 スコープサイズ 122分
DVD
脚本■水木洋子
撮影■中尾駿一郎 照明■浅見良二
美術■江口準次 音楽■大木正夫
監督■今井正

■東北の山村で祖母に育てられる混血児の姉弟が差別と偏見にめげずに力強く活きてゆく様を溌剌と凛冽に描く児童映画(?)。アメリカの黒人兵を父とする子供たちを今井正独特の素朴な視線で優しく切り取る映画で、特に大木正夫のピアノ一本による劇伴が大層な傑作なので、ビックリする。もともと今井正の映画は独特のリリシズムが身上だが、本作では特にその資質が音楽によって強調される。

■主題は黒人との混血児に対して「くろんぼ」と蔑称するなどの差別にあるが、その描き方は決して図式的ではなく、主人公の姉と弟の演技も抜群で、子供の言動がリアルに活き活きと描写される様は圧巻だ。水木洋子の脚本の冴えも素晴らしいが、今井正の演出術による部分も大きい。

■山村内での異質分子に対する差別と偏見を描きながら、アメリカと日本、アメリカ国内での人種差別まで盛り込まれ、ミクロの視線から人類の普遍性を見据えた脚本構成も骨太で凄い。

■主役の高橋恵美子の芸達者ぶりはひたすら圧巻で、よくもまあこんな配役が成功したものだと感心する。小学生にして子供時代を卒業せざるを得ないことを自覚的に受け止めるラストの彼女の選択には痛ましさと晴れやかさが同居して深い感動を覚える。アイデンティティの問題、差別の問題を共産党員としての党派性や教条主義的な視点から離れて深い愛情を持って描き出すところに今井正の真骨頂があり、水木洋子との仕事では特に際立って見える。

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