黒い蠍 ★★☆

THE BLACK SCORPION
1957 スタンダードサイズ 88分
DVD

■メキシコで撮影された低予算のモノクロのモンスター映画だが、特撮は一応ウィリス・H・オブライエンが担当して、助手のピート・ピーターソンが実際のアニメートを担当したらしい。それでも、ミニチュアセットは小さくてチャチだし、スクリーン・プロセスによる合成も精度が低く、十分に満足のいく仕事ではなかったはずだ。さらに、複数キャメラ人形アニメを撮影してカットを稼いだり、まあ見事な低予算ぶり。

■しかし、メキシコロケによる中盤までは案外いい調子でサスペンスもきくし、ロケと群集シーンのリアリティでかなり見せる。中盤の巨大な地下洞穴の中での秘境探検シーンが一番の見所で、巨大な蠍が多数登場するに加えて、尺取虫のような謎の巨大芋虫とか、蟹か蚤のような巨大な生物など摩訶不思議な巨大生物たちが食って食われる野生の世界が展開する。その描写はさすがに念入りで、捕食の様子がグロテスクに描かれる。悪趣味といえば、まさに悪趣味。というか悪趣味意外何ものでもない。

■ラストはメキシコシティに進行した巨大蠍が牛の半身に誘導されて高圧電流で感電死する。誘導シーンは『ガメラ 大怪獣空中決戦』にそっくりなので驚くが、感電作戦のさなかに唐突にギャグシーンが登場して、呆気にとられる。なに考えてんだか。面白すぎる。

■巨大蠍の群れが列車を襲撃して乗客を貪り食う場面もなかなかの見せ場で、列車は当然ながらコマ撮りなので、大転覆シーンも可愛いこと。それでも乗客を摘み上げて食おうとすると他の蠍に横取りされるなど、巨大蠍の無慈悲な生態を入念に描こうとする姿勢は貴重だ。

■ということで、フルショットの人形アニメはなかなか見せるのだが、アップショットの造形物がちょっとふざけすぎで、口から涎がダラダラという描写は著しく緊迫感を殺ぐ。カットの挿入もかなり適当で、モンタージュが合っていない!

■映像特典でアーウィン・アレンの『動物の世界』の恐竜シーン全編や『ラスベガス・モンスター』(未制作)のテストフィルムも観られる。観られるだけでありがたい気がする。

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