米 ★★★☆


1957 スタンダードサイズ 118分
DVD
原作■八木保太郎 脚本■八木保太郎
撮影■中尾駿一郎 照明■元持秀雄
美術■進藤誠吾 音楽■芥川也寸志
監督■今井正

霞ヶ浦の水郷周辺の農民のうち、土地を分けてもらえない農家の二男坊三男坊たちが「半年働いて一年喰う」という霞ヶ浦のわかさぎ漁に出てゆく様子と、小作人が農地の返還を求められ、喰うために刺し網漁に出て密漁で告発される様子を並行して描いた社会派リアリズム映画。しかし、今井正の映画は決して肩ひじ張ったリアリズムにならないところにあり、それがかつて観客から大きな支持を得た理由でもあるだろう。

■本作は、もっと地味な陰気な映画かと思いきや、田舎の生活の暢気なところや嫌なところを、抒情的なタッチで描いている。じっくりと時間をかけてロケ撮影を行い、水にあふれた農村風景や霞ヶ浦での帆掛け船での漁の情景など、見事な映像美だ。撮影の中尾駿一郎が名カメラマンと呼ばれる理由がやっとわかった。

■タイトルがなぜ「米」なのか、しばらくぽかんとしていたのだが、要は米=土地なのだな。土地を持たざる者の苦しさを描くことがテーマなのだ。決して稲作万歳!っていう農本主義的な映画ではなく、やっぱり土地の個人所有はおかしいよね!という映画。でも、党派的な教条臭さは微塵もなく、まるでデビッド・リーンの大作映画を観るような大自然と人間の営みの対比が流麗且つ力強く描かれる。

■特に霞ヶ浦での船の撮影は絶品で、「あれが港の灯だ」と同様、これも船の映画だ。木村功江原真二郎が船の上で生死を分けることいになる展開もそっくり。これは多分意図的な配役だろう。「米」を観てから「あれが港の灯だ」を観ると、衝撃度と皮肉さが倍増する。水上シーンは基本はロケ撮影だが、夜の船上シーンはステージ撮影らしい。ナイトシーンはいわゆる潰しではなく、夜に撮影しているし、ステージでも頑張ってリアルな照明を試みている。

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