J・エドガー ★★★☆

J. EDGAR
2012 スコープサイズ 138分
Tジョイ京都

J・エドガー [Blu-ray]
■FBI長官として有名なフーバーの秘められた私生活と公権力の濫用の実体を白日の下に晒すという、イーストウッドの意欲作。しかし、普通のおっさんがイーストウッドのアクション映画と勘違いして劇場に入るととんでもない目に合う、堂々たる薔薇族映画。ここまで堂々と描かれると、さすがに居心地が悪い。

共産党の弾圧、リンドバーグ事件を自慢げに回想しながら、一方で副長官とのなれ初めから公私混同したいちゃいちゃぶりまでを、自在に行き来する時制のもとで、しかもよどみなく物語る語り口は、さすがにハリウッド映画の底力。名コンビのトム・スターンの撮影も見もので、過去にさかのぼるほど脱色されてモノクロに近くなる色彩設計と照明効果は見事なものなので、映画館で観る価値がある。Tジョイ京都はデジタル上映だが、スクリーンの照度が上がるし、字幕を焼きこむプリントの複製での劣化が無いので、これまでのフィルム上映より画質は向上しているのではないか。

■フーバーのエディプス・コンプレックスを、アメリカという国が孕む不寛容さや偏狭さや傲慢さの根っこに重ね見るという作劇の工夫も興味深く、フーバーの母親を英国俳優の代表たるジュディ・デンチが演じることで、イギリスから生まれたアメリカの国の成り立ちを示唆するという技巧も凄い。司法長官の爆殺未遂事件を冒頭に置いて、9・11をダブらせる仕掛けも納得。

腐女子大喜びのホモ映画なのだが、その描き方の抑制はみごとになもので、小道具にハンカチを使った部分とか、老境の副長官が私にだけはうそをつかないでくれと懇願する場面とか、名場面の連続。ディカプリオは老け役も上手いので感心。相方のアーミー・ハマーの老け役は、しかし、ところどころでコントに見えてしまうのが実に残念。ナオミ・ワッツの化け方も見事なもので、長官の有能は私設秘書でレズという複雑な役柄を堅実にこなす。こんなに上手い女優だったのだ。


© 1998-2024 まり☆こうじ