最後の忠臣蔵 ★★★★

最後の忠臣蔵
2010 ヴィスタサイズ 133分
ユナイテッドシネマ大津(SC5)
原作■池宮彰一郎 脚本■田中陽造
撮影監督■長沼六男 照明■宮西孝明
美術監督西岡善信 美術■原田哲男 音楽■加古隆
監督■杉田成道

赤穂浪士討ち入り事件の16年後の京都で起こったある小さな事件を人形浄瑠璃の「曽根崎心中」と対比させながら描き出した、京都映画界の底力を見せつける傑作時代劇。製作はワーナー映画だが、かつてトワーニで「さくや妖怪伝」を撮った松竹京都映画のスタッフが中心となっている。照明は亡き中岡源権の弟子筋にあたる嵯峨映画の宮西孝明が担当し、かなり充実した照明技巧を見せる。とにかく、映像の重厚さはただごとではなく、森田富士郎が京都で五社映画を撮っていた頃のタッチに匹敵する。というか、撮影の長沼六男は山田洋次の時代劇から引き続き、日本映画の映像作りの最高水準を維持している。

■脚本を担当するのが田中陽造なので、曽根崎心中などを持ち出してくるのだが、これはさすがに大ベテランらしい大技。なんで役所広司の心理を描くのに曽根崎心中が要るのかという批判もありうるだろうが、赤穂浪士討ち入り事件の後、実際に起きた心中事件を絡ませることで、主人公の選択と行動に複雑な綾が生まれている。主人公と彼が一途に育て上げる娘の関係をエロチックに描き上げるところが、この映画の眼目で、小津安二郎の「晩春」などの一連の映画を下敷きにしているのだが、主人公と娘との関係性の中に曽根崎心中のエロティシズムが作用しているし、主人公の最後にとる行動の意味についても、単なる武士道以外のエロスの要素が仄めかされる。このあたりの含意が田中陽造の創作の秀逸さで、片岡仁左衛門役所広司の異様にめそめそした武士同士の別れの場面がエロティックな意味を帯びてくるのだ。

佐藤浩市は実質的には狂言回し程度の役で、かわいそうな役どころだが、役所広司が今回は久しぶりの名演を見せる。「十三人の刺客」ではほとんど良いと思わなかったが、今回は演技の見せ場も豊富で、さいごのさいごまで徹底的に魅せる。これしか無いというラストは、市川雷蔵の「斬る」のラストの境地を思わせる。演出的には多少くどいところもあるが、ここまで本格的な時代劇を見せてもらえれば、もう文句はないし、ぐうの音も出ない。

■製作はワーナー・ブラザース映画、電通角川映画ほか、制作は角川映画

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