君に届け ★★★

君に届け (Blu-ray)
君に届け
2010 ヴィスタサイズ 128分
新宿バルト9(SC6)
原作■椎名軽穂 脚本■根津理香、熊澤尚人
撮影■藤井昌之 照明■舘野秀樹
美術■橋本優 音楽■安川午朗 VFXスーパーバイザー■田中貴志
監督■熊澤尚人

熊澤尚人の最新作は、前作「おとなり」とほぼ同じスタッフで撮られており、お話が非常に他愛無いという点で共通している。熊澤尚人の映画の最大の弱点は脚本だと思うのだが、それ以前に原作のドラマツルギーというか、世界観というか、物語世界自体が、大人向けではないということだろう。

■本作は少女マンガが原作で、とても現実離れした高校生の友情と恋愛の成就を熊澤尚人らしいゆったりとした淡いパステルタッチで描く。貞子と呼ばれて忌み嫌われるヒロインの造形は少女マンガ以外の何物でもなく、やっていることはイジメとか差別なのだが、物語世界ではそれほどシリアスに受け取られていない。ここをもう少しリアルに振れば、映画の共感性が向上するのだが、敢えてそうはしない。大体、ヒロインが多部ちゃんなので、どう見てもキモくないのだ!

■しかし、この映画でもっとも気に障るのはARATA演じる担任教師で、ある意味で大人代表なわけだが、人物設定が無茶苦茶で、漫画界の住人と考えても合点がいかない。かなり重要な役回りなのだが、ARATAって誰?という配役の謎もあり、単純に見ていて疑問ばかりが湧いてくる。

■正直言って2時間は長すぎるので、さすがに後半は退屈するのだが、中盤のトイレで爽子が友達の汚名を雪ごうと必死に食い下がる場面は秀逸で、これはさすがに泣かされる。熊澤尚人の演出手法、キャメラワークが生きる場面で、ちょっと心洗われる。この見せ場に比べると、恋愛の成就のラストは弱く、ナイトシーンという場面設定は、さすがに難しいだろう。冒頭で桜満開の、まるで新海誠のような情景を見せているから、冬枯れで、しかも夜という設定では、ただでも薄いドラマが持たない。

■しかし、熊澤尚人は効果音の使い方が上手い。情景音や鳥の鳴き声などを自在に出し入れしながら、感情のメリハリをつけてゆく。あざとく派手に音楽や主題歌を垂れ流しにしがちな邦画界にあって、この節度は貴重だ。次回作は、ぜひ大人向けのドラマを見せてほしいと思うのだが、行定勲と棲み分けを図っているのだろうか。

■製作は日本テレビ集英社東宝ほか、制作は日活撮影所、ジャンゴフィルム。


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