■ライムスター宇多丸がTBSラジオで絶賛、監督の入江悠が日本映画監督協会新人賞を受賞するなど、何かと世評の高い本作だが、びっくりするような低予算デジタルビデオ撮りの映画にも関わらず、それでも映画は映画であると高らかに宣言する秀作。日本映画はいつの時代にも青春映画だけは傑作を残し続けてきたわけだが、その歴史にとびっきりの低予算映画が名を連ねたことになった。ビデオで撮っても映画になるのだ。
■特に本作がユニークなのは、音楽映画として成功している点で、日本映画が音楽映画として成り立つ例は、特に撮影所システムが崩壊して以降、決して多くないのだが、あろうことかヒップホップをテーマとしてやらかしてしまった荒業には、誰しも呆気にとられるだろう。そして、ラストの熱いラップには、誰しも心の中で嗚咽するだろう。というか、久しぶりで本当に良い青春映画を見せてもらったよ。根岸吉太郎の「遠雷」なども遠く想起させるし、日本の地方都市のリアリティを鋭い切り口で提示している。
■主役のデブラッパーIKKUというキャラが絶妙な存在感で、映画全体のルックを規定している。演じる駒木根隆介も上手いし、相方の水澤紳吾は70年台の日本映画から抜け出てきたようなダメな若者像を鮮烈に演じきる。ワンシーン、ワンカットの手法はすべて成功しているわけではないが、少なくともラストシーンは素晴らしい。ゼロ年代の掉尾を飾る名シーンと言える。