バロックザール、残響2秒の伝説、或いはオーディオ趣味と特撮趣味

■縁あって「石橋幸子 ヴァイオリンリサイタル 〜流麗なる響き〜」を聞きに行ったわけだが、会場の青山音楽記念館バロックザールは、室内楽専門の小規模コンサートホールとして、その筋では有名なところらしい。家人の不手際で、インターミッション後の「フランク/ヴァイオリンソナタ イ長調」、「クライスラー/美しきロズマリン」、「ドヴォルザーク(クライスラー 編)/わが母の教え給いし歌」、「サラサーテチゴイネルワイゼン」しか聞けなかったのだが、非常に堪能させてもらった。
■なにより、我が家のメインオーディオシステムのしょぼさがよく分かった。実物のヴァイオリンとピアノの音色と、さらにホールの誇る残響2秒の世界が醸し出す音色の桃源郷は、容易にオーディオシステムで自宅に再現できるものではない。本気で考えれば100万円を超えるのも当然といえる。というか、この音を聞きたければ、コンサートホールに出かければ十分じゃないかと、真っ当な自問に辿りつく。オーディオ趣味とは、畢竟ミニチュア趣味なのだ。コンサートホールを自宅に持ち込むために縮尺をかける、つまりコンサートホールのミニチュアを構築することなのだ。オーディオ趣味はそういう意味で、特撮趣味に通じている。その際に、9掛けにするのか妥協して7掛けにするのかというのが、予算の掛け方次第という考え方なのだろう。
■実物のヴァイオリンは高音域もちっともキンキンせず、繊細で硬い音の芯の周りに豊かなグラデーションを纏っている。そこに残響2秒という、ホールの特性が大きく関与していることは間違いないだろう。また、グランドピアノの音色には更に驚かされたのだが、安いオーディオシステムではこれも音が細く、耳障りになりやすい楽器だが、実物はまったくそんな気配が無く、高域から低域まで残響のグラデーションがたっぷり乗って、心地良いことこの上ない。ピアノの音色がこれほど魅力的だったとは、CDではちっとも分からなかったよ。
バロックザールには残響可変装置が設置されており、残響を抑えたいときに展開するらしい。フェルト地のカーテンのようなものが引き出されて、音響の反射を抑えるようだ。確かに残響2秒というのは、相当濃厚なもので、一音が発せられ、空間をたゆたいながら密かに消滅して行く、音の一生を確実に聴衆の耳に届けてくれるのだが、音数が多ければ、混濁してしまうだろう。とりあえず、我が家のメインオーディオシステムの目標としては、これくらいの規模のコンサートホールの8掛けくらいのミニチュア再現を目指したいと思う。

© 1998-2024 まり☆こうじ