プライド ★★★

プライド
2009 ヴィスタサイズ 126分
DVD
原作■一条ゆかり 脚本■高橋美幸伊藤秀裕
撮影■高間賢治 照明■上保正道
美術■高橋俊秋 音楽■清水信之
視覚効果■松本肇
監督■金子修介

■オペラ歌手を目指す性格も境遇も極端に異なる二人の音大生が、なんの因果か銀座の高級クラブで熾烈なバトルを展開するという異様な音楽映画。よりによって現在の貧しい日本映画界では鬼門と言える音楽映画に挑戦し、意外にもかなりの成果を上げているのは特筆すべき点だ。人物描写には女流漫画家らしい奇想がてんこ盛りで、毒々しい風味が、70年代くらいの日本映画を想起させる。制作がエクセレントフィルムということもあり、基本的には夜が戦いの舞台であり、予算的貧弱さは隠すべくもない。

■主演にステファニーを据えた時点でまっとうな商売を捨てているわけで、いったい誰のために作った映画なのか大いに疑問なのだが、映画としては怪奇な面白さに満ちているから侮れない。金子修介の演出としては、怪獣映画よりもマッチしているのではないか。ステファニーと満島ひかりが堂々たる吹き替えでアリアを歌い上げる場面からして人を食っている。これがこの映画のリアリティのラインですよとはっきりと宣言しておけば、このあと夜の銀座で何が起ころうと観客は受け入れるしかないわけだ。こうした芸当を堂々とやってのけるずうずうしさは賞賛に値する。ステファニーと満島ひかりが銀座のクラブで始めてデュエットする場面も、ちゃんと音楽映画として成立しているのには驚く。日本映画ではなかなかお目にかかれない種類の場面だ。

■そして、単に性格の偏向ではなく、完全にパーソナリティ障害だと思われる怪奇な主人公を演じる満島ひかりの危うさがこの映画のムードを決定付ける。どえらい逸材、というか振幅の広い演技は、観客の恐怖感を誘いすらする。ステファニーと満島ひかりをがっちりと引き受けるレコード会社の副社長を及川ミッチーが演じて、これまた信じがたい巧演。漫画チックな気障キャラクターを完璧に演じて見せる。その日本人離れした虚構性の構築は田宮二郎の域に近い。

■一方で撮影と照明は貧弱で、構図にもライティングにもセンスの良さというものが一切感じられない。演出もそこを逆手にとって、漫画的なフィクション感を醸成しようとしたのだろう。結果オーライという感じだ。

■製作はヘキサゴン・ピクチャーズほか、制作はエクセレントフィルム。

■コメンタリーによれば、新国立劇場でオペラ歌手が朗唱する場面は、背景の舞台装置をミニチュア(1/6サイズ)で制作して合成したそうだ。何気なく観てしまうとまったく、気づかない。松本肇の真骨頂だ。また、コンテストで主人公2人がオペラを歌う場面は、もともとは本人が歌う予定でトレーニングもしていたが、前座として登場する音大の学生と比べるとさすがに無理があるので吹き替えに変更したそうだ。結果的に非常にキッチュな名場面が登場したわけだ。

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