江戸城総攻 ★★★

江戸城総攻
ハイビジョンステージ
2009年 国立劇場大劇場 前進座公演
作■真山青果 改訂・演出■鈴木龍男 美術■伊藤熹朔、高木康夫
出演■嵐圭史藤川矢之輔瀬川菊之丞嵐広也、武井茂

■劇作家真山青果の『江戸城総攻』『慶喜命乞』『将軍江戸を去る』の三部作をつなぎ合わせた歴史劇の大作。薩長の官軍が江戸の町に迫るなか、山岡鉄太郎が慶喜の助命と江戸戦争回避のために奔走する。

■実は冒頭の15分程度を見逃したのだが、山岡鉄太郎が将軍慶喜の助命を嘆願して勝麟太郎西郷隆盛の会談を働きかける序盤はあくまで序盤という感じなので、まああまり影響は無いだろう。

■中盤は西郷吉之助と勝麟太郎の会談で、西郷が京都にいるときは江戸を火の海に沈めねば尊皇攘夷の実を挙げられないと思い込んでいたが、江戸の町や江戸の庶民を知るにつけ、戦争だけは避けなければと思うに至ったと述懐する部分が眼目で、当然太平洋戦争の前に書かれた戯曲なのだが、その反戦メッセージの打ち出し方は先駆的と言えるのではないか。西郷を演じる藤川矢之輔はいまひとつという感じだし、勝の瀬川菊之丞も生硬な気がする。

■三つ目の山場は山岡が慶喜に勤皇と尊王の違いを説く終幕で、慶喜役の嵐圭史はさすがに幅と深みのある心理表現が素晴らしいし、実質的な主役の山岡を演じる嵐広也前進座ホープらしい)の熱気が幕末の大立者たちを動かしてゆく様を小気味良く演じている。少々泣きすぎなのだが、これは原作の指示らしいから仕方ないか。しかし、どちらかといえば、一本に仕立て直す前の原作どおりの舞台を見てみたい気がする。


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