文楽『天変斯止嵐后晴』 ★★★

天変斯止嵐后晴
国立文楽劇場 開場25周年記念「夏休み文楽特別公演」第三部
原作■シェイクスピア 脚本・演出■山本尚一 作曲■鶴澤清治
出演■吉田和生、桐竹勘十郎、吉田玉女

■夏休み公演らしいにぎやかで派手でファンタジックな翻案ものなので、素朴に楽しい。3列31番という当日席が押さえられたおかげで、出語り床のまん前で、2時間たっぷりと渋い喉を堪能することができた。文楽はやはり音楽劇であって、オペラと同様コンサートと思って観ることができる。目をつぶって観ていても十分に劇的だ。
■お話の骨格は「テンペスト」をかなり忠実に踏襲しているようだが、単純に本作だけを観ると、終幕の部分に説得力が足りない気がする。法術を操る阿蘇左衛門藤則(プロスペロー)が簒奪者たちを許すに至る心の動きが見えないのだが、原作でもそうなのだろうか。
■中盤に登場する化鳥は昭和特撮テレビのB級怪獣のようなくたくたのヌイグルミで、操演でくねくねと飛ぶ有り様は、会場の爆笑を誘う(臨席のメガネ美女も大受けだったよ)のだが、実に凄いものを観てしまった気がするよ。他にも妖怪テケテケのよう化け物や、何故か頭だけがフラミンゴや孔雀という謎の妖精も登場する。後者など、ほとんどドリフのコントの小道具のようだ。映像で観てしまうとしらけるのかもしれないが、舞台で見ると何しろ立体感があるので、不思議なな感動があるね。しかし、このあたりは、映像系のデザイナーを使えば、もっと洗練された造形物が調達できるのになあ。
■個人的には泥亀丸(キャリバン)と茶坊主珍才の復讐劇に感情移入するところ大なのだが、呆気なく蹴散らされ、これも活劇としては勿体無い。多少愛嬌のある外見ながら、考えていることは案外邪悪で美登里(ミランダ)にわしの子を産めと迫る半獣人泥亀丸のキャラクターはもっと生かしてほしいところだ。
■とはいえ、やはり鶴澤清治作曲の楽曲とその編成の豪華さ、巻頭の海の嵐を表現するオーバーチュアの演出のダイナミックさ等など、見所、聞き所は豊富で、ラストの阿蘇左衛門藤則が客席に問いかける文楽には珍しい(原作どおりだが)趣向も意外と自然で違和感が無いし、十分に堪能させていただいた。劇的な完成度としては近松ものにはぜんぜん及ばないが。わかりやすく言えば、「怪獣無法地帯」とか「モロー博士の島」といった感じなので、怪獣好き、怪奇好きにはお奨め。もうじき東京の国立劇場での公演もあるそうなので、是非。

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