Dear Doctor
2009 ヴィスタサイズ 127分
京都シネマ
原作■西川美和 脚本■西川美和
撮影■柳島克己 照明■尾下栄治
美術■三ツ松けいこ 音楽■モアリズム
監督■西川美和
■山間僻村の唯一の医師がある日突然失踪した。その行方を追う警察は、村民の尊敬を集める名医の意外な正体を突き止めるが・・・
■日本映画界を背負って立つ秀才西川美和の新作。アイディアの核自体はこれまでにも似た話がいくつもあるはずだが、発端の失踪の謎から遡って若い医師の目から失踪までのエピソードを描くサスペンス豊かな話術の巧さと、演技陣の的確な演技でぐいぐいと見せる。同じ女流監督でも、横浜聡子の悪い意味での野性とは好対照の優等生ぶりを見せる。
■限界集落の医療問題とか、現代医療は本当に”人”を診ているのかといった、社会派的なテーマが設定されているが、主張をごり押しする映画ではなく、ふくよかなサスペンスと役者の演技の味で、特殊な状況に置かれた人間のある判断をじっくりと考えさせる映画である。
■なにより、主演の鶴瓶の存在感に尽きる感じだが、脇役に芸達者を揃えてそれぞれの味を抑制を効かせながら引き出す演出の安定感も凄い。松重豊と岩松了の刑事コンビは、やはり三木聡映画へのオマージュだろうか。以前から言っているのだが、山田洋次に代わって松竹の伝統を護っていくには、西川美和を取り込むのが一番の方策だよ。オリジナル脚本で、おじさん、オバサンを納得させる趣味の良い抒情性と理知的な構築、役者の持ち味を自然に引き出す節度のある見せ場作り、もっと金をかけた撮影所映画で文芸大作などを担うことのできる逸材なのだから。
■これは明らかにフィルム撮影で、鶴瓶の肌色はつやつやと輝き、肌色もこってりと色が乗っている。洋画的にコダックフィルムの濃厚な色彩を利用する形だ。山村の緑も瑞々しいが、水田が中心なので陰影には乏しい。同じテレビマンユニオン系の映画「歩いても、歩いても」の山崎裕の撮影の方が凄かったが、本作の撮影は素直に演技を支え、自己主張の少ないタイプのものだ。遠雷のフルショットをIMAGICAのスタッフがVFXで表現したが、なかなかリアルな出来で感心したよ。