落日燃ゆ ★★★

落日燃ゆ
2009 スタンダードサイズ ?分
朝日放送録画
原作■城山三郎 脚本■尾西兼一
撮影■加藤雄大 照明■?
美術■松宮敏之 音楽■渡辺俊幸
VFX■進威志
監督■猪崎宣昭

■NHKドラマスペシャル「白洲次郎」は第1話しか観ていないが、あまりにもスカした、気取った演出、ドラマとしてのコクの無さに、すっかり第2話以降を観る気をなくしてしまった。伊勢谷友介の演じる白洲次郎も、気障ないやな奴にしか見えないのは困ったことだ。それに比べると、テレビ朝日開局50周年記念ドラマスペシャルである本作は、ずっと正攻法のドラマで、充実している。美術や撮影は、あくまで東映品質なので、NHKの大作ドラマに比べると、ずっと質素なのだが。

■226事件後、重臣西園寺公望の指名で首相となった広田弘毅は粛軍を進め、平和外交方針で戦争の回避に務めるが、統帥権の独立を振りかざす軍の独走を抑えきれず、戦後東京裁判で文官としてただ一人A級戦犯となり絞首刑に処された史実を描いた城山三郎の傑作小説のドラマ化で、北大路欣也神山繁大滝秀治、菅原大吉、内藤剛志平田満寺田農橋爪功津川雅彦という豪華キャストで、じっくりとドラマを見せる。その姿勢がNHKの「白洲次郎」との違いだ。

■一切の弁解を行わず、処刑を甘んじて受けた東京裁判のエピソードは、あまり詳しく突っ込まず、橋爪功の演じる佐藤賢了に広田の内面に探りを入れさせた場面がドラマ的には肝になるが、ドラマ的といえば、前半の大滝秀治西園寺公望津川雅彦吉田茂が広田に首相の座を用意するあたりが一番の見所で、それぞれにアクの強い演技で見せ場を盛り立てる。まさに演技合戦の妙味を味わうことが出来るから、とても得した気分になる。NHKの「白洲次郎」では原田芳雄吉田茂を演じているが、さすがに津川雅彦のはまり方には叶わない。一方で、NHKの「白洲次郎」では岸部一徳近衛文麿が出色なのだが。

城山三郎の描いた背広の似合う、石屋の息子の平民出身という広田像は、東京裁判での悲劇性を含めて日本人好みのキャラクターとして創り上げられたものと考えるのが冷静な判断だろうが、このドラマでは北大路欣也高橋恵子の夫婦像と家族像が中心に置かれ、お茶の間の観客にとって感情移入をさらに容易にしている。その作劇は定石であるが、広田が昭和初期の時代の中で果たすことのできた役割や能力の限界についての批判的な考察が含まれていないのが物足りないところではある。

■配役では高橋是清神山繁の化けっぷりが凄く、誰だかわからなかったよ。でもやぱっり、大滝秀治津川雅彦が出ばってくると、ドラマが引き締まるから、そのキャリアと貫禄は貴重だ。近年監督業が忙しい津川雅彦だが、俳優に専念したほうが観客にとっては嬉しいのだ。

© 1998-2024 まり☆こうじ