ミュージカル南十字星 ★★★

ミュージカル南十字星
NHK教育 劇場への招待
企画・構成・演出■浅利慶太 台本■劇団四季文芸部 作詞■浅利慶太 作曲■三木たかし 美術■土屋茂昭 照明■沢田祐二
出演■阿久津陽一郎(保科)、田代隆秀(島村中将)、樋口麻美(リナ)

■太平洋戦争中にインドネシアに進駐した帝国陸軍所属の義理の兄弟が、戦後、一方は独立戦争に身を投じ、片方は戦犯裁判にかけられることになるという物語をミュージカル仕立てに劇化したものだが、ミュージカル要素はむしろ少なく、純粋なミュージカルではないと思うぞ。ミュージカルシーンのほとんどは、ブンガワン・ソロの楽曲と、インドネシア芸能の披露シーンが主体で、音楽に乗せて台詞を交わすというシーンは無い。
■劇的には第二部戦後篇の約1時間が見所で、義理の兄弟が命運を分けてゆくところの理不尽さが、基本的に単純な物語である本作の人間像の微妙な綾をもたらしている。義理の兄の原田中尉が唐突にインドネシア独立運動に軍事顧問として参画する意志を固める部分など、描き方としては非常に唐突だし、その罪を被ってBC級戦犯として不合理な責めを甘んじて受けようとする弟の納得の仕方も十分な説得力を持つかというと疑問もある。が、戦勝国の報復感情を和らげるために刑死を受け入れるという解釈は興味深い。原田中尉については、敗戦による訴追を逃れるためにインドネシア独立戦争に参画したように見えるのだが、これはインドネシア独立戦争に身を投じた旧帝国軍人の姿を単純に美化することを躊躇したためだろう。そこにはインドネシアと日本の一筋縄ではいかない歴史関係を奇麗事では済ませられないという意志が感じられる。
■演者では島村中将を演じた田代隆秀が素晴らしい声質と貫禄で、帝国軍人魂(知らんけどな)をよく体現している。顔つきといい、体格といい、美声だけでなく昔の日本人の無骨な迫力を見事に再現してみせる。
劇団四季の昭和の歴史三部作は「異国の丘」が未見だが、本作は「李香蘭」よりも劇的にはよくできていると思うぞ。

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