村岡伊平治伝 ★★★★

村岡伊平治
NHKBS2 昭和演劇大全集
平成6年 座・新劇 俳優座劇場公演
作■秋元松代 装置■高田一郎、照明■桜井真澄、音楽■林光 演出■増見利清
出演■てらそま昌紀村岡伊平治)、兼松正敏、矢野宣(伊藤博文)、伊藤初雄(豚吉)、立花一男(市平)、伊藤克、馬場恵美子、庄司美代子

■明治中期、天津で床屋の下働きの青年村岡伊平治が陸軍少尉の満州査察旅行に徴用され、大陸の各地で女郎として呻吟する日本の娘たちに同情し、アモイで食い詰め者達を手下に使って女郎たちの足抜けを助けるようになるが、日本の領事館からは煙たがられ、多額の借金を解消するために、ついに、志に反して助け出した女たちを南方各地に女郎として斡旋する事業を思い立つ・・・
今村昌平が「女衒」として映画化した実話を劇化した本作、今回の公演は低予算の小粒な配役なのだが、演劇としての面白さはよくわかる。主演のてらそままさきは、東映特撮テレビ映画の声優としてなんとなく名前は知っていたのだが、堂々たる主演ぶりで、実力派の役者である。
■演劇の構成としては、リアリズム方向で、メリハリの効いた展開が、単純にお話としても面白いのだが、特に村岡伊平治が当初の志と真反対に方針転換し、女衒の親玉となるなかで、自分の言動に一貫性を求めるため呻吟しながら、強引な理屈を無理やりひねり出して演説するあたりが傑作。多分に自分自身に言い聞かせているわけだが、自分の矛盾だらけの活動の根拠を、日本発展のための人柱となり天皇明治天皇)陛下に喜んでもらうためになすことは全てが正当であるという、太平洋戦争敗戦までの日本を覆っていた合理化の仕方に求めるありかたを、作者は批判しているのだ。しかし、その強引なまでの思い込みも、最後の伊藤博文の醒めた対応によって冷静に相対化され、天皇の存在をよりどころとしながら、その存在感は現実には頼りない片思いに過ぎないのではないかと疑いながらラストを迎える。
■物語はいかにも東映映画向きの任侠的な人物造形になっているのだが、今村昌平の「女衒」はあまり評判が良くなかったはずで、加藤泰なんかが映画化すればピッタリだったのにと惜しまれる。

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