ブーリン家の姉妹 ★★★

THE OTHER BOLEYN GIRL
2008 ヴィスタサイズ 115分
TOHOシネマズ二条(SC4)

■脚本があの傑作「クィーン」のピーター・モーガンというのは、見た後に知ったのだが、確かに見せ場を心得たよくできた脚本なのだ。とにかく盛り込むエピソードが豊富なので、冒頭の展開のスピード感は凄いのだが、次第にブーリン家の姉妹のヘンリー8世を巡る皮肉な運命がメリハリ豊かに立ち上がってきて、悲劇的なクライマックスに向けて加速してゆく。ほんとうに脚本はよくできていると思うのだ。しかし残念ながら傑作とまではいえないのは、おもに演出の失敗による。もっと具体的に言えば、ほぼ全編に間断なく音楽を流すという音楽演出の失敗である。
■ヘンリー8世に最初に気に入られたのは妹のメアリーで、歓心を引くことに失敗した傷心のアンはフランスで男心を弄ぶ術を会得して帰国後、王の気持ちを自在に操ってゆくが、最初に身篭った子供は女で、その次は死産、王の心が離れてゆくことに焦ったアンはおぞましい一計を案ずる・・・という英国版大奥物語を、まるでアクション映画のような演出で、監督のジャスティン・チャドウィックは押してゆくのだが、やはり緩急のつけ方に自信が無いのだろう、やたらと音楽を多用して、繊細な心理描写よりも、力強くその場その場の興味を引かないと観客が退屈してしまうのではないかという不安神経症的な作りになっている。だから文芸映画ではなく、時代劇なのである。そういえば「あるスキャンダルの覚書」も音楽がひとりで盛り上がっていたが、最近のイギリス映画界の傾向なのだろうか。
■キアラン・マクギガンの撮影もコントラストの強い、銀残し(多分)スタイルで、今風の画作りに力を見せるが、やはり文芸映画のタッチではなくアクション映画風なのだ。なぜかやたらと前景をなめる構図や、モノ越しのカットを多用しており、英国宮廷をのぞき観るような視線が想定されているようだ。
■本作は、観客が引き続き「エリザベス」を観ることを意識した作りになっており、勝手にエリザベス三部作にしてしまった製作陣の稚気は楽しい。
追記】製作のアリソン・オーウェンは、やはり「エリザベス」の人だった。完全にシリーズものと捉えているようだ。監督のインタビューによると撮影はデジタルビデオで行われたそうで、役者にキャメラの存在を意識させないようにしたとのこと。銀残し風の画調はDIのデジタル処理によるものか。

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