霧の火 樺太・ 真岡郵便局に散った9人の乙女たち ★★★☆

霧の火 樺太・ 真岡郵便局に散った9人の乙女たち
2008 スタンダードサイズ ?分
読売テレビ録画
原作・脚本■竹山洋
撮影■? 照明■?
美術■? 音楽■羽毛田丈史
演出■雨宮望

■その昔、「樺太1945年夏 氷雪の門」という映画でも取り上げられた戦時秘話「真岡郵便電信局事件」をテレビドラマ化した日本テレビ開局55周年記念ドラマ。「樺太1945年夏 氷雪の門」は当時ソ連からの圧力で大規模公開が見送られた幻の映画なので、未見。特撮を成田亨が担当していることは特撮ファンの間では有名。製作母体が邦画大手ではなく、JMPという謎の独立系のプロダクション(?)なので、反共宣伝として製作されたのかもしれない。

■本作は、3月に放映された「東京大空襲」に続く日本テレビ開局55周年記念ドラマで、市原悦子のほとんどひとり芝居状態の演技も見所だが、脚本がベテランの竹山洋なので、さすがに人間関係が念入りに作りこまれており、類型的な反戦ドラマではなく、血の通った人間像と戦争と戦後に関する考察が盛り込まれている。

市原悦子の若い頃を演じるのが、なんと福田麻由子(近年身体的に急成長したらしい)なのだが、実にストレートに熱く演じて、観ていて気持ちがいい。義理の父親との確執がドラマの大きな核になるのだが、遠藤憲一と激しくぶつかり合う様は、脚本的にも演技的にもよくできている。特に、正体不明な義理の父親の複雑な人間像の造形には力がこもっており、史実でないフィクションの部分として作者の想いが仮託されている。最後の、父と娘の命がけの別れのドラマは素直に、胸を打つ。オーソドックスな作劇の好見本といえるだろう。「東京大空襲」と比べると脚本がよくできていることがはっきり分かるし、歴史的事件を扱うについては「郡上一揆」や「草の乱」がつまらない理由がよく理解できる。

福田麻由子遠藤憲一は家庭内で激烈に対立し、どつきあいを演じているのだが、その様子を見ている母親(名取裕子)は割って入って止めるでもなく、ただ笑って見ているだけというのが凄い。まるで寺内貫太郎一家だ。この義理の父親というのが、朝鮮人で元共産党員、今は樺太で怪しげなブローカーを営んでいるという濃い設定で、遠藤憲一が胡散臭さ一杯に演じてるのだが、ラストに娘の前で男気を示して、儲け役となっている。

■ラストでは、太平洋戦争終結後のソ連兵の侵攻のなかでも九死に一生を得て生き延びた市原悦子が孫娘香里奈に戦後の皮肉な半生を、独特の悦子節で語ってたっぷり聞かせる部分も、市原悦子の独壇場だし、樺太で別れた初恋の人との戦後の再会のエピソードなども念が入っており、意外な力作である。運命の8月20日を迎えるまでのサスペンスもよく効いており、霧の海に姿を現すソ連艦隊のVFXショットも劇的効果としては抜群だ。

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