どん底 ★★★☆

昭和演劇大全集(BS2録画)
劇団民藝 平成2年池袋サンシャイン劇場公演 
作■ゴーリキー、台本・演出■渡辺浩子、装置■安部真知、照明■吉井澄雄
主演■滝沢修(ルカ)、奈良岡朋子(ワシリーサ)、梅野泰靖(ペーペル)

劇団民藝創立40周年公演だそうで、演技者の質も粒ぞろいで、簡潔な美術と陰影の深い照明効果は、さすがに老舗新劇の余裕を感じさせる質の高さ。

■しかも、黒澤明の「どん底」に比べると、ずっと分かりやすく、面白い芝居であることがよくわかった。渡辺浩子の演出のせいかもしれないが、ちゃんと娯楽劇としてコミカルな見せ場を散りばめてあり、しかもその大半を滝沢修が演じるから凄い。

■最近では三谷幸喜の作品や仮面ライダーカブトなどにも出演している梅野泰靖が、30周年記念公演では宇野重吉が演じたというペーペル役を演じて滝沢修と絡んでいるのを見ると、なんだか日本芸能史のパースペクティブが狂ってくる。滝沢修が平成まで存命だったという事実に違和感があるのだ。(実際は、昭和どころか21世紀直前に亡くなっているのだが)この、どん底に蠢く人々にささやかな希望をもたらすルカという役柄は、たとえば生前の藤山寛美などに演じさせても、おもしろかったのではないだろうか。というか、そのまま松竹新喜劇に移植できそうな気がする。

■ワシリーサは案外出番が少ないのだが、奈良岡朋子が普段テレビドラマでは見られない悪女を熱演して迫力がある。

■しかも、最近収録したような精細なビデオ映像は、さすがにNHKのライブラリーである。NHKの存在価値はこうしたところに発揮される。

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