お吟さま ★★★☆

お吟さま
1978 スタンダードサイズ 154分
滋賀会館大ホール 
原作■今東光 脚本■依田義賢
撮影■岡崎宏三 照明■下村一夫
美術■木村威夫 音楽■伊福部昭
監督■熊井啓

千利休志村喬)の娘吟(中野良子)は幼馴染で妻子あるキリシタン大名高山右近中村吉右衛門)を一途に思い続けていたが、朝鮮、明に出兵する野心にとりつかれた秀吉(三船敏郎)がキリスト教禁止令を出したことから孤立してゆく。利休も暴虐な秀吉の野心を諌めようとしたことから逆恨みを買い、いっぽう秀吉の側室に上がることを拒否した吟は、何もかも捨てて右近のもとへ走ろうとする。だが、そのとき利休宅は秀吉の軍勢によって包囲されていた・・・
■宝塚映画の最後の作品で、堂々たる時代劇大作だが、往年の製作規模に比べると見劣りする。しかし、熊井啓初の時代劇ということで、溝口組の依田義賢に黒沢組の三船敏郎志村喬を迎えて、乗りに乗っている。利休が秀吉の海外派兵に反対したことから死に追い込まれるという部分には、太平洋戦争に突入する日本の姿を二重写しにしているように見える。
■ラストのお吟の自刃場面など、熊井節が炸裂する。武将の娘(利休の家には連れ子として入ったのだ)らしく果てた娘の遺骸に取り付いた母親(岩崎加根子)が秀吉に恨みをぶつける場面は、思いをぐっと溜めに溜めて、伊福部節を極大音響で鳴り響かせることことで一気に爆発させるという、「日本列島」でも見事に成功した演出を再現して、見事に泣かせる。依田義賢の脚本自体が伊藤大輔的な情念によって成立しており、本作は立派に正統派時代劇となっているのだ。すっかり忘れられた作品だが、中野良子の演技には好き嫌いが分かれるところがあるとじはいえ、忘れ去るには惜しい秀作だ。
■なにしろ志村喬の演技が素晴らしく感動的だし、対する残虐な野心家秀吉を演じる三船敏郎も完全な憎まれ役として、まるで「モスラ対ゴジラ」のゴジラのような刺々しさを身にまとって熱演する。特に中村敦夫を攻め殺して鼻を削げ、耳を殺げと命ずる狂気の武将ぶりは圧巻。
■さらに高山右近を演じる中村吉右衛門の配置も見事に決まって、配役と演技のアンサンブルがこの映画の大きな魅力となっている。特に、吟が無理やりに右近のもとを訪れるが、信仰を裏切ることはできないと言われて泣く泣く去る場面など、熊井啓のじっくりと時代劇らしい所作を見せて、その中に押し殺された哀しみを見出そうとする演出は凄い。
■プリントはさすがに真っ赤で、色彩映画の美しさは無いが、傷などは少なく、案外良好な保存状態。滋賀会館大ホールは、音響が弱点らしく、台詞が聞き取りにくい箇所もあった。撮影補として大岡新一の名前が見える。


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