白痴 ★★

白痴 [DVD]
白痴
1951 スタンダードサイズ 166分
BS2録画 
原作■ドストエフスキー 脚本■久板栄二郎黒澤明
撮影■生方敏夫 照明■田村晃雄
美術■松山崇 音楽■早坂文雄
監督■黒澤明

ドストエフスキーの原作に精通した観客でなければ理解しがたい劇化で、しかも4時間25分の完成版を大幅にカットせざるをえなくなったという曰くつきの大作である。第一部「愛と苦悩」、第二部「恋と憎悪」に分かれているが、第一部の冒頭は大幅にカットされたらしく、無声映画かと思うほどに字幕が多量に挿入され、しかも文字数が異様に多い。さらにナレーションも挿入され、ひたすら人間関係の説明に尽力する。
■とにかく登場する主要人物の描き方がまったく日本映画のドラマツルギーにそぐわず、そのため一般の観客の理解不能なドラマとなったことがよく分かる。白痴こと森雅之は、自在な役作りで難役を精一杯具現化するが、この人間はひとつの象徴として造形されているので、世界観とのバランスの取り方に工夫が必要なのだが、戦後日本(札幌)という時代設定のなかに投入された人間像は、どうもごり押しで、説得力が無い。原節子との腐れ縁を抱える三船敏郎は野性味には溢れているが、性的な魅力が感じられず、物語のテーマが十分に実現されたかどうかは、正直よくわからない。
■唯一、原節子の男たちの思惑を歯牙にもかけない孤高の存在感を示す熱演は圧倒的で、特に中盤の舞踏会の場面は、黒尽くめの衣装の効果もあり人間離れした女性像を示して凄い。一方の久我美子は、この頃が絶頂期で、これも男に傅かない若い娘を、溌剌とした知性を湛えた演技で見せる。この二人の女に比べると、森と三船の男性コンビは柔弱すぎるのだ。ラストの奇妙な心中(?)など、かなり独りよがりな演出で、どうも褒めるべきところが無い。

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