火火 ★★★

火火
2004 ヴィスタサイズ 114分
DVD 
原作■那須田稔、岸川悦子 脚本■高橋伴明
撮影■栢野直樹 照明■磯野雅宏
美術■金勝浩一 音楽■梅林茂
監督■高橋伴明

■女の身で信楽焼きに打ち込む主人公(田中裕子)は、自然釉を完成させると評判となり、貧しかった家計も安定するが、焼き物の修行をしていた長男(窪塚俊介)が白血病に倒れる・・・
高橋伴明の巧さを堪能できる秀作だが、難病映画なので、最後の頼みの綱の骨髄移植も失敗する後半はみていて辛いところがある。難病映画のルーチンを抜け出しているのは、女流陶芸作家の実話であるという点と、ヒロインの造形に監督の実の母親の姿を重ね合わせたという点による。
■このところ力作、佳作に出演が続いている田中裕子が、ここでもいい演技を見せており、特に前半のコミカルな場面でのメリハリのきいた演技はさすがの巧さを見せる。息子役の窪塚俊介も案外自然な演技を示しており、地味な映画だが役者の力でぐいぐいと引っ張る。他にも岸部一徳池脇千鶴遠山景織子石田えりと実力派が終結し、演技面では万全といえる。石田えりは、変なスキャンダルまみれだが、「キリシマ 美しい夏」といい、本作といい、着実にいい女優になっている。
■映画の構成としては前述の通り典型的な難病映画なのだが、主人公の逞しくユーモラスな人間像の魅力がユニークな個性となって、この映画の背骨となっている。高橋伴明という人は、名作「TATOOあり」でも犯罪者とその母親の関係を切々と描き出したが、ここでも母と息子(長女は完全に仲間はずれにされてる)の濃厚な関係に注目している。難病映画にして母もの映画という、典型的なお涙頂戴ジャンル映画だが、語り口の卓抜さで新鮮な感動を味わわせてくれる。母親と息子の微妙な距離感の演出がべたつかないのが美点だ。
■栢野直樹のキャメラが丁寧な仕事ぶりで、小さな世界をリアルに、肌理細やかに描き出しているのも立派だ。
■製作はゼアリズエンタープライズ、バップ、カルチュア・パブリッシャーズほか、制作はゼアリズエンタープライズ

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