雨の町
2006 ヴィスタサイズ 95分
DVD
原作■菊地秀行 脚本■田中誠 脚本協力■奥寺佐渡子
撮影■松本ヨシユキ 照明■矢部一男
美術■安宅紀史 音楽■遠藤浩二
VFX■ダイナモピクチャーズ
監督■田中誠
■たいした話題にもならず、いかにも低予算の怪奇映画だったので見逃していたが、傑作じゃないですか。実際、ヴァリカム撮りで、ロケセット中心の低予算映画だし、お世辞にも美的に優れたキャメラとは言えないが、怪奇映画としては間違いなく一級品である。
■ある村で発見されたこどもの遺体には内臓が無かった。取材に来たC級雑誌の記者は、その遺体が蘇って歩き出す様を目撃し、謎を追ってこどもの出身地の山間の村を訪ねる。そこでは30年以上前に30人以上のこどもが失踪する事件が未解決になっていた・・・
■「光る眼」とか「ペット・セメタリー」の焼き直しといえば確かにそうなのだが、そうした先人の傑作を見事に換骨奪胎して、親と子が殺しあうギリギリのせめぎあいを秀逸な寓話として構築している。恐怖描写自体には特に斬新さは無く、ホラー映画専門作家の研ぎ澄まされた鋭敏さは感じられないが、ドラマとして正攻法でサスペンスと情感のこもった恐怖を醸成する腕は確かなものだ。一種の妖怪映画ともいえるあたりの重層的な構築の仕方も巧い。
■家に戻ってくる異界のこどもたちを撲殺することは、人間のエゴなのか、親として既に死んだはずのこどもたちに対する努めなのか、それは残酷さなのかやさしさなのか、その両義性に引き裂かれる村人たちの心理をきちんと描けている点がまず凄いし、成海璃子演じる異界のこどもとの交流の皮肉な結末には切実な哀しみがこもっている。ホラー映画ブームの日本映画界だが、恐怖と哀しみをこのレベルで統合させて成功した例はほとんど無いのだ。
■真木よう子は結局あまり活躍しないが、少し投げやりな感じの娘の役は、地に近いものかもしれない。村人代表として大活躍するのが草薙幸二郎で、これは実質的に主役級の大役で、貫禄で演じ切る。日活アクション映画での経験を生かして、クライマックスの惨劇を支えている。絵沢朋子と夫婦なのだが、この配役は見事だ。あ、主人公の淫らな母親役で江口のりこが1シーン出演して、主人公に強烈なトラウマを植え付けるのだが、このシーン(というかカット)が凄い。彼女はこの線で性格俳優を目指すべきだ。ほんとに怖いですから。
■CGの使い方も非常に巧く、ここぞというピンポイントで派手目なCGを投入して、異界のこどもたちの特徴を的確に描いている。もう、デジタルエフェクトの使い方の見本といえる。
■製作はプログレッシブピクチャーズ、ヒューマックスコミュニケーションズ他、制作はプログレッシブピクチャーズ。
■まあ、とにかく怪奇映画好きは必見なので、騙されたと思ってDVD借りてこよう。なんで誰も教えてくれなかったの?