バッテリー ★★★

バッテリー
2007 スコープサイズ 118分
DVD
原作■あさのあつこ 脚本■森下直
撮影■北信康 照明■渡部篤
美術■磯見俊裕 音楽■吉俣良
CGIプロデューサー■坂美佐子 CGIディレクター■太田垣香織
監督■滝田洋二郎

■岡山の田舎町に引っ越してきた孤高の天才ピッチャー(林遣都)は病弱な弟を気にしながらも、地元の中学校の野球部に入部するが、彼の天賦の才能は周囲の人間に様々な波紋を投げかけ、彼を孤独にしてゆく・・・

■原作は児童文学らしいが、正統派の青春映画で、日本には少ない野球映画の良作である。バッテリーの姿を、その距離感ごと捉えるため、スコープサイズが採用されている。キャメラは「北の零年」でもスコープサイズを使って味を占めた(?)北信康だ。とにかく超剛速球ピッチャーなので、ピッチングにはCGがふんだんに使用されている。

■単純な児童映画になっていないのは、ひとりの天才少年が現われ、その才能を晴れ晴れと発揮することで学校の仲間たちや自分の母親の心の中に澱のようなものが生まれ、どす黒く変質してゆく様を描きこんだあたりの、人間の見つめ方のシビアさによる。まだ美しい母親が、病弱な弟に愛を注ぎ、健康で才能に溢れた兄を疎ましく思うというあたりは、妙にリアルで、女性作家+女性脚本家の本領発揮といえる部分だ。もちろん、家庭に閉じ込められている母親の性的抑圧感をも照らし出しているわけだ。その意味では天海佑希の配役はしっくり来ないのだが。

■いっぽう、おっとりした冴えない父親を岸谷五朗が演じ、基本的に好きな役者ではないのだが、ここでは良い味を出している。この人は脇でこうした役柄を地味に演じたほうが分相応の値打ちが出るのだろう。また、野球部の顧問を演じた萩原聖人がいつの間にか貫禄がついてふてぶてしい田舎教師のにおいを感じさせる巧演を見せる。ラストで消えてしまうのが可哀想なのだが、岡山弁もかなり板についており、リアルなおっさん像を見せる。巧い俳優であることを再確認した。大ベテランとして登場する菅原文太はいつもの文太で、それ以上でも以下でもない。

滝田洋二郎もこんなに素直な青春映画を撮ったのは初めてのことだろうが、キャメラワークもフィックス中心で、非常にスタティックな画作りになっている。今どき珍しいくらいだ。その一方で音楽がやたらと派手に煽り立てるのは、音響設計のミスではないか。この映画の静かな基調音から浮いている。
■製作は角川ヘラルド映画、TBS、東宝、製作プロダクションは角川ヘラルド映画

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