個人教授 ★★★☆

LA LECON PARTICULIERE
1968 ヴィスタサイズ 90分
BS2録画

■昔々、深夜のテレビで切れ切れに観たような観なかったような、エッチであったような、そうでもなかったような曖昧な記憶の中に不思議に想い出される映画が、これ「個人教授」である。

■今回はじめて通しで観たのだが、意外にも誠実な青春の痛みを綴った映画で、なかなかの秀作。なんといってもパリのロケ撮影の秀逸さと、町並み自体の美しさ、フランシス・レイの流麗なメロディが渾然一体となって、ヒロインのナタリー・ドロンだけでなく、甘美で官能的な時空を形成しているところがミソだ。

■当時、アラン・ドロンの嫁さんであったナタリー・ドロンが、別に個人教授をするわけでも、主人公の筆おろしをするわけでもなく(金持ちのぼんぼんで既に女には困っていない)、レーサーの彼氏と少年の間を揺れ動くというドラマである。しかも、そうした心理劇はあまり念入りではなく、かなり雰囲気で流している演出なのだが、それが心地よいのがこの映画の美点。

■最後は、レーサーとよりを戻すのが彼女たちの幸せと悟った少年が身を引き、その決心を知らなずに彼に微笑みかける彼女に雨の中で別れを告げるという名シーンになるのだが、その前のシーンで、それまで全くそんなそぶりもなかったのに学生集会に参加しようと学友に言い出す場面があり、年上の女との逢瀬に身を焦がすより、学生運動に血を燃やすのが正しい青年のあり方であるというメッセージ映画とも見えるところが趣深い。

■日本にもこの映画の影響をたっぷり受けた、山根成之の「パーマネント・ブルー 真夏の恋」とか「さらば夏の光よ」とか「突然、嵐のように」といった青春映画の傑作が存在したのだが、なぜか今日ほとんど観ることができないのだ。特に、秋吉久美子が指名手配中の学生運動の闘士(!)を演じた「パーマネント・ブルー 真夏の恋」はわが生涯の名作なのだが、ほんとうにそれほど凄い傑作だったかどうかは、もう一度観てみないとわからない。

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