奈緒子 ★★★☆

奈緒
2008 ヴィスタサイズ 120分
MOVIX京都(SC6)
原作■坂田信弘原作、中原裕作画 脚本■林民夫、古厩智之、長尾洋平
撮影■猪本雅三 照明■松隈信一
美術■中澤克巳 音楽■上田禎
監督■古厩智之

■長崎の小島で喘息療養中の奈緒子(上野樹里)は海で溺れかかるが、漁師に救われる。だが漁師は波に呑まれて死んでしまう。6年後に東京の陸上競技場でその息子雄介(三浦春馬)に再会するが、気まずい思いを抱えたままの二人だった。雄介のことが頭を離れない奈緒子は駅伝に出場した雄介を応援に行くが、給水に失敗、雄介は倒れてしまう。二人の過去を知る陸上部の監督(笑福亭鶴瓶)は奈緒子に夏休み中に陸上部の合宿に参加するよう勧める・・・
■原作は有名な漫画らしいのだが、映画では導入の話術に未熟さが目立ち、この先どうなることかと心配させられる。だが、さすがに古厩智之だけあって、上野樹里が登場してからは本調子が出て、青春映画のオーソドックスな佳作に仕上がっている。物語の実質的な主人公は雄介であり、陸上部のメンバーたちであり、奈緒子はほとんど傍観者に過ぎないのだが、上野樹里という配役で2時間持たせてしまうのは力技といってよい。特に、最初の駅伝で給水に失敗する場面のスローモーション撮影のシーンは文句無しの傑作シーンだ。「マトリックス」の登場以来、スローモーション撮影にはなにやら胡散臭さとギャグっぽさが付いて回るようになってしまったのだが、この技法が本来持っていた役割を正確に使い切っており、異様な感動をもたらす。ザ・青春映画とでもいうべき、一瞬の時間がもたらす切なさを切り取った名場面だ。
古厩智之は、若手女優のなかではベテランに近いともいえる上野樹里を、強引に新人デビュー時代の天然素材に引き戻し、まるでドキュメンタリーのような表情を捉える。しかし、実はその天然ぶりは上野樹里の天性の女優魂の発露であるに違いない。ほとんど台詞らし台詞もなく、ただ雄介を見つめ続けるという難役を演じきったこと自体、驚嘆すべき存在感といえる。「ロボコン」で長澤まさみを女優開眼させた古厩智之の天然素材の捌き方は見事なものだ。改めて上野樹里の変さ加減の美しさに惚れた。
■実質主演の三浦春馬の熱っぽい爽やかさも好感が持て、実質スポコン映画である本作の清々しさをよく担っている。クライマックスの長崎の町を縦断(横断?)する駅伝のシーンのロケ撮影も秀逸で、長崎の町の美しさを素直によく表現している。いかにもスポコンな監督役を演じる鶴瓶も意外な好演を示し、十分に助演男優賞レベルの恰幅のよさを見せる。蛇足がだらだらと続きがちな近年の邦画には珍しく、ラストの処理をあっさりと切り上げた演出の筋の確かさも心強い。

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