ウォーター・ホース ★★★★

THE WATER HORSE LEGEND OF THE DEEP
2008 スコープサイズ 112分
MOVIX京都(SC9)

■物語自体はいかにも誰かが考え付きそうな筋立てなのだが、そうした物語のひとつのジャンルにおいて決定打というべき傑作である。肝心のVFXはWETAデジタルが担当して、水が絡むデジタル合成とCGIを高水準でアニメートしてみせる。クルーソーと名づけられた怪物の大活躍は、WETAデジタルの名に違わぬ見ものだ。
■第二次大戦中のネス湖付近を舞台として、海から侵入するドイツの潜水艦をネス湖で迎え撃とうとする軍人の行動と思考の愚かさを皮肉を利かせながら徐々に浮かび上がらせる脚本と演出が巧妙で、怪獣を際立たせるための軍事行動でも、ミニタリズムを愉しませるためでもなく、明らかに揶揄するために軍事行動が盛り込まれている。そして、ケルトの伝説に登場するウォーター・ホースの出現をめぐる動転のなかで、戦争をしようとする者、戦争にしか解決策を見出せない者の愚かしさを、じっくりと身にしみて納得させるという戦略が見事に成功している。もちろん、これは第二次世界大戦下のドラマを通して、今まさに戦われている対テロ戦争の愚かしさを照らし出している。
■そして、ある意味で定型的なラストで、ウォーター・ホースはなにものかが人間を試すために遣わされる存在であることに自然と気づくことで、昔語りというスタイルで語りだされたこの映画の狙いが明瞭になる。
■監督のジェイ・ラッセルと脚本のロバート・ネルソン・ジェイコブスは非常に優れた仕事ぶりで、おまけに超大作らしく、舞台となるネス湖岸の古城のような屋敷の美術セットの豪華さと、入念な飾りつけは圧巻だ。撮影はニュージーランドで行われたようで、ネス湖の情景にはマット画が多用されているようだ。そのおかげで絵に描いたような明るい立体感が生まれている。自然条件に左右されるロケ撮影ではこうした画調の揃った自然描写は困難なはずだ。
■とりあえず、「小さき勇者たち ガメラ」に泣かされたあなたは、絶対必見。そうでなくても、世界中のすべてのこどもたちには必見と言っておこう。

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