流転の王妃 ★★★

流転の王妃
1960 スコープサイズ カット版
KBS京都録画
企画:藤井浩明 原作■愛新覚羅浩 脚本■和田夏十
撮影■渡辺公夫 照明■泉 正蔵 
美術■間野重雄 音楽■木下忠司
特殊撮影■的場徹
監督■田中絹代

満州国皇帝の弟溥傑に嫁いだ嵯峨浩(さが・ひろ)の自伝に基づく”激動の昭和史”映画。正味75分程度のカット版なので特に前半がやたらと快調に進んでしまうのだが、激動の昭和史に押し流されるひとりの女の半生記としては波乱万丈の展開で引き込まれる。しかも、ほとんどは実話に忠実に描かれているようだ。

■映画制作当時はまだ、当事者が存命中だったので竜子(京マチ子)と溥哲(船越英二)という名前に変えられているが、関東軍の策謀で政略結婚させられ、愛し合いながら敗戦で引き離され、溥儀の皇后を護りながら中国大陸を転々とする流浪の日々が切実に描かれる。ここでは、もうひとりの”流転の王妃”である溥儀の皇后が阿片中毒で精神を病みながら、流浪の途中で襤褸切れのように死んでゆく姿と対比されて竜子の姿が描き出され、女の力強さを打ち出す。

■後半の過酷な旅の描写は、もちろん大陸ロケなど行われていないが、演出的にはかなり頑張っている。その後、長女の天城山心中があっさりと流され、あわただしく収束してゆく展開は時間不足という印象だが、満州国の一断面をひとりの女の、いくぶん浮世離れしたとはいえ、生活実感のなかに浮き彫りにしたドラマは見ごたえがある。頼りになりそうで頼りない溥哲を船越英二が上品に演じて、さすがに巧い。

■的場徹の特殊技術作画合成を中心として、満州での居宅のフルショットの情景やサーチライトの交錯する空襲の情景などを描き出す。

■2003年にテレビ朝日開局45周年記念ドラマとして「流転の王妃・最後の皇弟」のタイトルでも映像化されているが、これは未見。オールスターキャストなので、これはこれで楽しそうだ。

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