自虐の詩 ★★★☆

自虐の詩
2007 ヴィスタサイズ 115分
MOVIX京都(SC10)
原作■業田良家 脚本■関えり香里中静流
撮影■唐沢悟 照明■木村匡博
美術■相馬直樹 音楽■澤野弘之
VFXスーパーバイザー■野崎宏二(N−DESIN)
監督■堤幸彦

 あまり漫画には執着が無いので、「デビルマン」でも「最終兵器彼女」でもあの程度のレベルの映画でも十分楽しむことができるのだが、この「自虐の詩」についいては特別な思い入れがあり、変な映画作ったら承知せんぞという意気込みで映画館に出かけた。監督が堤幸彦というのは大きな心配要因だったのだが、杞憂に終わった。これは十分によくできた娯楽映画である。決してそれ以上でないのだが、これ以上を望むのは高望みというものだ。

 これも心配された阿部寛の配役はこの際正解で、台詞を言わせず、ただ無意味にでかいガタイが周囲から浮き上がっている所在無さを寒々と晒させるところに演出意図があり、成功している。

 ヒロインを演じるのは中谷美紀だからこれはもう久々の真骨頂で、この人は世が世なら高峰秀子レベルに到達できる正統派女優なのだが、生まれた時代が悪かったという感じだ。本作は「嫌われ松子の一生」で観客が抱いた欲求不満を払拭すべく、中谷美紀の名演をじっくりと見せる。これが最大の成功の要因だ。中谷美紀もインドばっかり行ってないで、女優に磨きをかけておくれ。

 一方、物語の肝である熊本さんにはギミックが仕込んであり、本来なら樹木希林的な存在感の特異さと演技力を兼ね備えた実力派女優が演じるべきところを、若干漫画的に解決している。原作に思い入れの強い身としては違和感が残るところだが、そこはもう原作に忠実な作劇に乗せられると涙無くして見られないのだ。

 西田敏行が乱入する中盤はどうなることかと思ったが、中谷美紀が瀕死の重傷を負う場面で「砂の器」もかくやという長い長い回想に入り、多少慌しい感じでラストの熊本さんとの再会に縺れ込むあたりは、日本の娯楽映画としてはもう鉄壁の構成だ。

 堤幸彦がここまで職人監督として成熟したのかと感慨深いものがあった。

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