プルートで朝食を ★★★☆

BREAKFAST ON PLUTO
2005 スコープサイズ 127分
DVD


 舞台はアイルランド、教会に置き去りにされた赤ん坊は、長じるとともに女装癖が顕著となり、女の心性を隠そうとしなくなる。自分を捨ててロンドンの街に消えたという母親を探すため、英国に渡った彼女は、様々な人間達との出会いに恵まれ、様々な苦境をしなやかに乗り越えてゆく・・・

 「クライング・ゲーム」(懐かしい〜)の印象も鮮やかなニール・ジョーダンの監督作で、テロの嵐吹き荒れるアイルランドとイギリスを舞台として性同一性に関する違和感を抱えながら、女性としての感性としなやかな発想によって、行く先々で人間関係を築き、その暖かさから生きる逞しさを獲得してゆくひとりの青年を主人公とした異色作。しかも、とびきり新鮮で愉快な青春映画になっている。ニール・ジョーダンという監督自体は、実に堅苦しそうなオッサンだが、その頭のなかには、こんなキッチュなイメージが乱舞しているのかと考えると、人間というものに対する興味も膨らむ。

 みずから”キトゥン”と名乗る変な青年をキリアン・マーフィが爽やかに演じて、どんな境遇にあっても、神によってどんな奇妙な試練を課されようとも、その条件のなかで人生を切り拓いてゆく姿を力強く描き出す。この役者、どうみても男っぽい骨ばった顔つきだが、その女装が汚くならず、キッチュでポップで、自由さという空気を纏っているように見えるところが演出とスタッフワークの巧さである。その父親である牧師を演じるリーアム・ニーソンが、コメディ演技も披露し、緩急自在のリアリティを見せる。覗き部屋のシーンなど演出も演技も非常に素晴らしい。

 母親探しの旅の先に彼が何に辿りつくのか、誰しも納得させるその結論の鮮やかさには、ちょっと感動させられた。非常に単純な物語だが、細かい枝葉の部分に十分な工夫を施した、贅沢な映画である。久しぶりに映画らしい映画を見せてもらって、大満足だよ。

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