パッチギ! LOVE&PEACE
2007 ヴィスタサイズ 127分
ユナイテッドシネマ大津(SC7)
脚本■羽原大介、井筒和幸
撮影監督■山本英夫 照明■小野晃
美術■山下修侍 音楽■加藤和彦
CGIプロデューサー■坂美佐子 CGIディレクター■太田垣香織
監督■井筒和幸
1974年、息子の難病を治療するため東京に転居したアンソン(井坂俊哉)一家は、多額の治療費を捻出するため妹のキョンジャ(中村ゆり)は芸能界へ入り、アンソンは偶然知り合った元国鉄職員(藤井隆)と密輸に関与するようになる・・・
前作で日本人の高校生の視点から在日コミュニティを描いた井筒和幸が、今回は在日コミュニティの視点から、日本への告発を試みた挑戦的な意欲作。さらに、アンソンの父親が徴兵を逃れ、日本軍と米軍の両面の敵を掻い潜って生き抜く様を交えて、クライマックスでは、キョンジャの映画女優としてのデビュー作「太平洋のサムライ」*1の完成披露試写会の様子と、その父親がヤップ島空爆*2の生き地獄を逃げ延びる様をカットバックで描き出すという、メッセージ性の強い作劇となっている。
正直なところ、前作の青春映画としての美しさと比べると、今回はドラマ的には生硬で、笑いとアクションを織り込んだ人権啓発映画という趣なのだが、在日という存在に日本映画で真正面から斬り込んだその意気と、今回の映画で大きなテーマとなった戦争に対する明確なメッセージ性については、日本映画界においてはすでにベテラン監督の座を占める世代の監督として、ある意味で責任を果たした作品といえるかもしれない。政治的な立場からは幾らでもイチャモンをつけられる映画であるが、敢えて喧嘩を売っているわけだ。
実際のところ、ジャスティライザーガントこと井坂俊哉の演技は未熟で、年若い父親としての実感が演技から感じられないのが辛いし、中村ゆりも熱演するものの、表情に独特の変な癖があり、演技的にはまだまだ発展途上というところだ。そのせいもあって、前作ほどの普遍性には達していないが、テーマ設定のユニークさで、日本映画史でも例を見ない映画にはなっている。その中で、我々の期待を裏切らない卑怯で冷酷な女たらしを嬉々として演じる西島秀俊が出色だろう。こうした役柄を演じて下品に流れない色気があるのは貴重な存在だ。誰か、この男に民谷伊右衛門を演らせてやれよ。
特に、石垣島でロケした戦闘シーンが出色で、撮影監督の山本英夫が銀残しを駆使して描き出した場面は、ハリウッド映画や韓国映画に匹敵するルックを作り出しており、「男たちの大和」の技術的成功を踏まえて、凄惨な戦場の実相を、リアルに描き出す。もちろん、淵源は「プライベート・ライアン」にあるのだが、日本の戦争映画としては画期的といえるだろう。VFXにはミニチュアは使用されず、フルCGのようだが、完成度は高い。
ドラマとして、最終的に違和感が残るのは、日本人が身代わりになってアンソンの行動が免責されるという展開で、差別に晒される人々の、差別に対抗するための止むにやまれぬ犯罪的な行為は免責されるべきという60〜70年代(政治とバイオレンスの時代)には一定の理解があった考え方に基づいているのかもしれないが、それを現在の映画でそのまま素直に描いてしまうと、誤解が生じはしないか。本来は作劇のなかで何らかの注釈が必要ではないか。
そもそも、差別の存在と芸能界における在日パワーの重みについてはリアルな現実を盛り込んでいるが、今回は作劇のリアリティとのバランスがとれておらず、作劇だけハリウッド的ファンタジーに近づいてしまったために、特にアンソンのエピソードについて納得しがたい結末になってしまったようだ。