インファナル・アフェアⅡ 無間序曲★★★☆

INFERNAL AFFAIRS II
2003 スコープサイズ119分
DVD


 「インファナル・アフェア」の前日譚で、ウォン刑事とサムの奥深い腐れ縁と、尖沙咀を牛耳るンガイ一家の没落とサムの台頭をフィルム・ノワールなタッチで雄渾に描き出す傑作。ただ、明らかに「ゴッド・ファーザー」を意識している点と、本作単独では完結しない作品であることで、若干評価が下がるが、演出面や役者の演技としては、確実に前作を上回る。
 前作の演出、キャメラワークとのタッチの違いは意図的に行われたようだ。前作では、明るい照明で役者のアップを基本とし、凝った設定で観客が混乱しないよう平明を意識した演出がなされていたのに比べると、本作は夜間ロケを基本トーンとして、黒社会を中心点としながら、リアルな演技とリアルな街の情景が描き出される。そのタッチは、ジョニー・トゥが演出したといっても通用しそうな硬派ぶりで、名シーンの釣瓶うちだ。ボスが暗殺されるや、上納金を渋る4人の幹部を、ボスの息子(フランシス・ンが絶品の演技を見せる)が電話一本で次々と翻意させてゆく冒頭の話術など黒澤明の上出来の作品に匹敵する高等テクニックだ。
 とにかく、役者たちがすべて素晴らしく、アンソニー・ウォンは髪型の変化で前作よりも幾分若々しくみえる精力的な刑事(しかも予想を上回る曲者)を完璧に演じて男臭さを満喫させ、一方のサムをエリック・ツァンが抑制のきいた渋い演技で演じ切る。才覚と運命によってナンバーワンに上り詰めてゆく皮肉な存在であるサムという人間像をリアルに演じきった演技力は圧巻。一方、男たちの間を強烈な意思を秘めて動き回る極妻カリーナ・ラウの存在感。年上の、しかもボスの女である彼女に純情を捧げる若き日のラウと二人のドラマの顛末の非情さ、このあたりの異様に業の深い人間関係のクールな描き方には痺れる。Vシネマも廃れた今日の日本映画では到底望めない、アクション映画の精髄と呼ぶべき傑作である。

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