大映性格俳優の死

 本年2月26日に高松英郎心筋梗塞で、そして3月16日には船越英二脳梗塞で死去した。ふたりともかつての大映専属俳優で、高松英郎増村保造の初期作品で決定的な役割を演じて日本映画史に名を刻んだ俳優だ。
 「巨人と玩具」で高度成長期の会社人間を戯画化しながら颯爽と演じ、「黒の試走車」でも田宮二郎を相手にセルフリメイクともいえる役柄を快演していた。山本薩夫の「傷だらけの山河」でも知恵遅れの娘を抱えながら鉄道用地買収に狂奔して力尽きて鉄道自殺する役柄を演じて、大映映画の歴史のなかで、特定のキャラクターを否応無く確立した点で非常にユニークな存在だった。
 一方の船越英二大映専属の性格俳優として様々な役柄を柔軟な感性で演じ分けた芸達者だが、後年のテレビドラマでの好々爺の印象のみが喧伝されるのは口惜しいことだ。大映専属にしておくには惜しい性格俳優だった。特に市川崑の諸作での屈折した役(「野火」)や飄々とした役柄(「黒い十人の女」)は印象深いが、多かったのは真面目で気弱な男(つまりありふれた普通人)の役で、「黒の試走車」、「傷だらけの山河」や「白い巨塔」などで演技の巧さを見せつけた。さらに「怪談蚊喰鳥」や「盲獣」で演じた粘着質の不気味な怪人物の造形力の力強さでは怪優ぶりを発揮したが、玄人筋でもあまり話題にもならず、俳優船越英二の評価に大きな影響を及ぼさなかったのは残念なことだ。特に「盲獣」の演技は絶品なのだ。
 高松英郎船越英二のような幅広い融通無碍な演技力を持たず、役柄の幅に限界があったが、初期に演じた、社会体制の中で懸命にあがきながらも、消耗し、押し流され、踏み潰されてゆく人間像の硬質な魅力を結晶させた功績は何ものにも換え難い。
 角川映画に吸収されて大映映画の看板は既に無く、かつての大映映画を脇で支えつづけた性格俳優がふたりとも今は亡いのだ。

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