ミヤコ蝶々ものがたり

 テレビ朝日スペシャルドラマ「ミヤコ蝶々ものがたり」を観た。脚本は大石静、監督は黒沢直輔。制作はテレビマンユニオン*1

 スペシャルドラマにしては明らかに低予算ドラマで、大掛かりな時代風俗の再現は一切割愛されているが、ミヤコ蝶々南都雄二のヒット番組「夫婦善哉」を後半のメインに据えて、芸人ミヤコ蝶々の男遍歴に焦点を絞った構成は巧い整理の仕方だ。芸人として仕込んだ父親(石倉三郎)、最初の夫で落語家の三遊亭柳枝橋爪功)、成り行きから関係をもった責任をとって芸人に育て上げた南都雄二山本太郎)の3人の男と蝶々の関係を追いながら、「夫婦善哉」を標榜しながら私生活ではそれを実現できなかった因果な女芸人の半生を総括してみせる。さすがに大石静らしい迷いのない作劇で、案外見ごたえのあるドラマだった。浪花の芸道ものとしてのリズム感や浪花情緒といったコクの部分は十分に表現されていないが、橋爪功は女にだらしない落語家を巧演している。

 久本雅美は真面目に熱演して嫌味はないが、ミヤコ蝶々の持っていた男勝りのキツイ気質が希薄なのが意外だった。ずいぶん我の弱い情に脆い女芸人に見えてしまうのは、実際と異なるのではないかという気がする。南都雄二が蝶々ひとりで出演するテレビ番組「夫婦善哉」のしゃべりに死の床で合いの手を入れる場面など案外良くできていて、もっと予算をかけて当時の雰囲気を本格的に再現してほしかったと思わせる。

*1:撮影・志賀葉一、照明・赤津淳一、美術・稲垣尚夫

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