クライシス・オブ・アメリカ ★★★☆

THE MANCHURIAN CANDIDATE
2004 ヴィスタサイズ 130分
DVD


クライシス・オブ・アメリカ スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
 ジョン・フランケンハイマーの「影なき狙撃者」の権利はフランク・シナトラの娘が持っていたようで、「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督にあたったリメイク作。オリジナルに負けない骨太さと繊細さを兼ね備えた力作である。
 冷戦下の世界情勢を背景とした物語を、湾岸戦争時に何者かによって洗脳された兵士が米国の指導者として送りこまれるという形に現代化している。オリジナルの共産勢力の暗躍は、これも現代的なある組織に翻案され、リアリティある寓話に設えられている。
 オリジナル作品には有名な名シーンがいくつもあり、一種のカルト作ともいえると思うが、原作のかなり奇抜な着想をオリジナルよりも地に足の着いた説得力をもって描き出したジョナサン・デミの演出力に感心する。
 主役として、謎解きの狂言廻しとして機能するデンゼル・ワシントンも誠実な演技が際立っているし、母親、メリル・ストリープの尽力で副大統領候補に上り詰めるリーブ・シュライバーが悲劇的なキャラクターを持ち前の繊細な心理表現で演じきり、絶品。ジョナサン・デミの演技指導ときめ細かい映像表現のおかげで、地味ながら実力派のこの役者の持ち味をよく引き出している。
 メリル・ストリープはもちろん圧倒的な貫禄だが、むしろ「プラダを着た悪魔」で演じた人間像のほうが複雑な綾を抱いており、演技の幅も広く、出色だった。
 ジェフリー・ライトデンゼル・ワシントンの講演に訪ねてくる場面の主観ショットで、ジェフリー・ライトが真正面ではなく身体を斜に構えて横目で語りかける異様さとか、選挙本部でデンゼル・ワシントンがリーブ・シュライバーの肩に仕込まれたチップを食いちぎる場面の、半透明のブースの外に原色が明滅し、スタッフがあわただしく動き回る様子を映しこんだ映像的工夫など、実に秀逸で、名コンビの撮影監督タク・フジモトの貢献も大きい。