すべては愛のために ★★☆

BEYOND BORDERS
2003 スコープサイズ 127分
BS2録画


イギリスの金持ちの夫に嫁いだヒロイン(アンジェリーナ・ジョリー)は、義父の慈善事業の記念パーティに乱入した活動家の男ニック(オーウェン・ウィルソン)の主張に打たれ、エチオピアでの難民支援ボランティア活動に身を投じる。その後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)での仕事を得て、カンボジアチェチェンとニックの後を追ううち、二人は運命的な愛を確かめ合うが・・・

 監督は「007 カジノ・ロワイヤル」のマーティン・キャンベル、撮影監督のフィル・メヒューも、この監督とコンビが多いようだ。世界の紛争地帯を股に賭けて宿命の男女のメロドラマが繰り広げられる、と過度の期待をすると確実に裏切られる能天気な一作。なにしろ、エチオピアカンボジアチェチェンで何が起こっているのか、具体的な描写も説明もほとんど無く、なんとなく欧米と異なる風俗と風景が世界の果てをイメージさせる舞台装置のなかで、青年医師と美貌の人妻の不倫メロドラマが燃え上がればいいんだろうという、非常に大雑把な作劇に開いた口が塞がらない。しかも、そのメロドラマ自体の表現が実に稚拙であり、しかも主演のアンジェリーナ・ジョリーの演技力欠如のせいで、意味不明な映画になってしまった。正直、これほどの大根女優とは思いもしなかった。特にチェチェンでのラストなど噴飯モノだ。

 以上のことは、例えば昨年の傑作「ナイロビの蜂」と見比べるとあまりにも明白で、欧米や極東の視点から見た”知られざる地の果て”に存在する過酷な現実とフィクションとの綯い交ぜによる虚実皮膜の間に立ち昇る強烈な義憤と感情のざわめきは、ここには一片も存在しない。

 ただ、フィル・メヒューの端正な撮影は見もので、なんでも手持ちカメラ風に微妙に揺らして、ドキュメンタルな臨場感を煽りたがる傾向の強い昨今、フィックスを基調として往年の大作メロドラマ風の擬古典的なスタイルを堅持したところにイギリス職人の意地を感じさせる。

 この映画はもともとオリバー・ストーンが暖めていた企画で、引き継いだ監督のマーティン・キャンベルも、職人監督としての割り切りのよさを見せ、主義主張には拘泥せず、難産だった企画を映画として完成させることに精力を傾注したようだ。その淡々としたこだわりの無さは、見ていて小気味良いところがあるが、少なくともメロドラマ作家ではないようだ。

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