プラダを着た悪魔 ★★★☆

THE DEVIL WEARS PRADA
2006 スコープサイズ 110分
MOVIX京都(SC6)


 ジャーナリストを夢見る主人公(アン・ハサウェイ)は、一流ファッション雑誌の敏腕編集長(メリル・ストリープ)のアシスタントの求人に申し込み、難関を突破して採用される。ファッションセンスなど皆無の彼女はすぐに音を上げると思いきや、傲慢カリスマ編集長の無理難題に機転を利かせて対応し、次第に信頼を勝ち取っていくが・・・

 全女性が憧れる(?)超有名ファッション雑誌の編集部を舞台に全くの素人娘の視点からその不可解さをコメディとして描き出す佳作。なんといっても、メリル・ストリープの圧倒的な貫禄が凄まじい。まさに大御所といった存在感と、余裕の演技力を披露し、彼女の場面になるとキャメラも監督も畏まって、その演技にただ見とれるだけという厳かさを醸し出す。演出は、フジテレビの劇画調といった雰囲気の調子の良さが身上の軽快なタッチだが、メリル・ストリープの見せ場については、じくりと描き出し、ラストには思わぬ政治劇を提示して、一筋縄ではいかない彼女のキャラクターを完成させる。

 考えて見ると、アン・ハサウェイメリル・ストリープの関係は、増村保造の「巨人と玩具」の高松英郎川口浩、「黒の試走車」の高松英郎田宮二郎の関係にそっくりで、メリル・ストリープは破滅しなかった高松英郎なのだ。それは、破滅することなく社内権力の頂点に登りつめ、政治力を駆使して自分の地位にしがみついて老害を撒き散らす厄介なカリスマとなった高松英郎の姿であろう。増村が悲壮な風刺劇として描き出したものを、コメディとして描き出してしまうところにアメリカ映画の懐の深さがあり、このジャンルについては独壇場といえる不動の表現様式を示している。

 アン・ハサウェイの先輩役を務めるエミリー・ブラントという女優が柔軟な演技力を見せて、助演女優賞に値する巧演を見せる。ウィノナ・ライダーをちょっと不細工にした感じだが、これは儲け役といえるだろう。アン・ハサウェイよりもずっと印象深い。

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