女
1948 スタンダードサイズ 67分
BS2録画
脚本■木下恵介
撮影■楠田浩之 照明■豊島良三
美術■平高主計 音楽■木下忠司
監督■木下恵介
ダンサーをしている情婦(水戸光子)を連れ出して、逃避行に誘う男(小沢栄太郎)。男の気配から強盗を働いて逃げていることを察した女は別れようとするが、男が執拗に食い下がって復縁を迫ると、つい信用してしまう女。二人の腐れ縁の行方は・・・
登場人物を2名に絞って、実験的な映像表現で大人の男女の腐れ縁の行き着く先を心理サスペンスとして描き出した小品佳作。木下惠介の先取の気質がよくわかるし、ただの実験に終わらず、サスペンスとスペクタクルを堂々と繰り出して、極めてユニークなカタルシスをもたらす。並みの映画監督にできる芸当ではない。
特に、クライマックスに唐突に巻き起こる旅館の火事の場面がもの凄く、火事場に急ぐ野次馬の群れのスペクタクルを背景に、延々と痴話げんかを繰り広げるという、見たことも無い設定は独創的だし、さらに消火活動が展開する旅館街をロケセット(?)で、延々と長廻しでキャメラを引きながら捉える異常な臨場感を引き出したカット、その火事場の喧騒のなかで刃傷沙汰を繰り広げる男女の姿は、後の内田吐夢の「花の吉原百人斬り」のクライマックスに匹敵する、日本映画史上に残る修羅場演出である。炎上する旅館の周囲では、二階、三階から次々と布団が投げ落とされ、なにやら書類が宙に舞い散るという、実にリアルな火災描写は、日本映画史上でも類を見ないものだろう。
実際、クライマックスを支配する非日常感は、「宇宙戦争」や「地球最後の日」そして「世界大戦争」といった終末映画にもっとも近いイメージで捉えられている。晩年に傑作「この子を残して」を撮ったのも、この系譜に属するものだったのか。(「この子を残して」は、ほんとは田中友幸が木下惠介を東宝に呼んで製作すべきだったと思うのだが)
これだから油断も空きも無いのだ、木下惠介という監督は。