千葉泰樹の傑作小品「鬼火」の原作でも名高い吉屋信子は、本来は少女小説家として有名なのだが、”奇妙な味”とまではいかないものの、独特の文学的不可思議小説を残している。
本書はそんな短編を集めた極めて珍しい短編集。「生霊」「生死」「宴会」「鶴」(川端康成が激賞したらしい。)「冬雁」あたりが文学的な香気を感じさせる秀作で、「誰かが私に似ている」はより中間小説寄りになっているが、これはこれで味わい深い秀作である。
個人的には森鷗外の「追儺」を下敷きにした「宴会」の肩の力の抜けた筆致が円熟を感じさせる名品だと思うし、「冬雁」で描かれる、まさ数奇なという感じの、何かに出会うべきはずの一生が結局、しかるべきものとのは出会うことなく宿命論的に終わってしまうヒロインの奇妙な半生が孤高の像を脳裏に結んで、異彩を放っている。
- 作者: 吉屋信子,東雅夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 文庫
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