太平洋の鷲 ★★★

太平洋の鷲 [DVD]

太平洋の鷲 [DVD]

  • 発売日: 2005/12/23
  • メディア: DVD
太平洋の鷲
1953 スタンダードサイズ 119分
DVD
脚本■橋本忍
撮影■山田一夫 照明■大沼正喜
美術監督北猛夫 美術■阿久根巌 音楽■古関裕而
特殊技術■円谷英二渡辺明、向山宏
監督■本多猪四郎


 警察に逮捕された右翼の青年が山本五十六大河内伝次郎)の命を狙っていたことを告白するところから、海軍次官として米内海相柳永二郎)と組んで三国軍事同盟締結に反対しながらも、本人の信念と正反対の日米開戦を迎え、真珠湾攻撃で大戦果をあげるも、ミッドウェイ海戦での惨敗により早期講和の道を閉ざされて、ブーゲンビル島で戦死するまでを淡々と描き出す戦記映画。
 この映画のユニークさは、脚本を橋本忍が一人で執筆していることで、話術としては他の傑作群と比べると非常に地味で、人物の解釈にも新機軸が無く、本当に橋本忍が書いたのかという疑問も生じるが、水準作ではある。後の「連合艦隊司令長官 山本五十六」よりも、特撮スペクタクルとしての機能が軽い分、山本五十六の人間像を緻密に描きこんであるのが、この映画の美点だろう。ラストの実も蓋もない字幕処理がまるで「世界大戦争」なのも驚く。
 演出が本多猪四郎で、特撮のフッテージよりも記録映像を多用したあたりは、ドキュメンタルな演出姿勢が顕著だ。多少、演出的に抑揚が足りない印象だが、後の8・15シリーズのような悲壮感はまだ見られず、史実に即して山本五十六という傑出した軍人の視点から先の大戦を検証して、結局は破壊しか生み出さない戦争の実態を探るという精神で統一されている。
 戦時中に戦意高揚映画を連打していたおかげで公職追放にあい、追放解除後初の本格的特撮映画となった円谷英二だが、どうもまだ東宝も腰が引けていたようで、戦時中の戦記映画の名場面の流用がほとんど。「加藤隼戦闘隊」から流用した派手な空爆シーンなど、円谷特撮の真骨頂といえるすさまじいものだ。ミッドウェイ海戦の空母赤城は実際の海に大型のミニチュアを浮かべて操演したもので、そこだけスケール感も空気感も妙にリアルで、「太平洋の嵐」よりもある意味では完成度が高いのだが、他の場面は合成や小規模なミニチュアワークが主流で、演出自体にも戸惑いが感じられるし、生気が感じられない。ガ島近海の夜戦などもお粗末なもので、円谷英二の内面にはまだ戦争の、というかむしろ”戦後”がもたらした鬱屈がわだかまっていたのではないだろうか。