小さき勇者たち GAMERA ★★★★

小さき勇者たち GAMERA
2006 スコープサイズ 96分
TOHOシネマズ高槻(SC8) 
脚本■龍居由佳里
撮影■鈴木一博 照明■上妻敏厚
美術■林田裕至 音楽■上野洋子
特撮撮影■村川聡 特撮照明■白石宏明
特撮美術■春日佳行 操演■関山和昭
視覚効果■松本肇 特撮演出■金子功
監督■田崎竜太


 33年前、志摩の緋島でガメラは自爆して群がるギャオスを殲滅した。そして現在、緋島で少年の発見した卵から小さな亀が生まれる。トトと名づけた亀の子供は宙に浮き、急成長を遂げて姿を消す。そんな折り、志摩の街にトカゲ型の怪獣ジーダスが突如上陸、少年達の窮地を救ったのは、8メートル大に巨大化したトトだった。辛くもジーダスを撃退したトトだが、深手を負い、名古屋の大学に搬送されるのだった・・・

 平成ガメラに感じていた物足りなさを一気に解消してくれた怪獣映画の小傑作。湯浅憲明が創り上げたガメラというキャラクターに対する敬意は、平成ガメラ三部作よりも、こちらに鮮明に表現されている。昭和ガメラを愛したオッサンたちにとっても、ほとんど文句の無い仕上がりだ。

 実際のところ、前半の志摩での少年達の生活感溢れる描写の部分は脚本的にも演出的にも意図を実現できておらず、かなりもどかしい仕上がり。この部分に関しては冨樫森に監督をお願いしたいところだ。トトの活動と少年達のスケボーをカットバックした場面など、演出意図が大きく滑った恥ずかしい場面になってしまった。この前半部分での少年たちの時間と、ちょっと年上の隣の美少女に対する淡い想いをきちんと描けないと、ジュブナイルとしては本来不成功のはずだ。山崎貴だって「ジュブナイル」で成功していたはずだが、田崎竜太が劇映画監督として大成するための今後の課題だろう。

 ところが、田崎竜太の侮れないところは、東映でアクション映画のエッセンスを骨の髄まで叩き込まれていることで、ジーダスの出現から、舞台が名古屋に移る後半の、特撮シーンと、本編のバランスのとりかたが抜群に巧く、金子修介が結局ゴジラでもガメラでも見せてくれなかった怪獣映画のカタルシスを見事に再現して見せてくれる。

 特撮班の監督は初体験の金子功の功績は絶大といってよく、「ゴジラ×メカゴジラ」の菊地雄一のデビュー以来の衝撃だ。樋口真嗣神谷誠がちっとも見せてくれなかった怪獣の怪獣らしい戦い方をこれでもかというくらい徹底的に見せてくれる。溜飲が下がるとはまさにこのことだ。菊地雄一の「ULTRAMAN」も良かったが、ミニチュアワークの充実度等も考え合わせると、こちらに軍配を上げざるをえない。

 田崎竜太の演出意図に沿って構成された垂直軸のアクション演出が非常に巧く構築されており、久しぶりにピンポイントで贅沢なミニチュアワークも発揮され、ガメラならではの工夫された戦い方が展開される。名古屋駅前の攻防戦は怪獣映画史上に残る名勝負だ。近年の怪獣映画で怪獣同士のアクションにここまでこだわった例は皆無といっていい。川北紘一樋口真嗣神谷誠も叶わなかった境地に金子功は緒戦で到達してしまった。これは、田崎竜太の演出意図を実現するという立場に徹した特撮班の位置づけが巧く機能した結果だろう。菊地雄一に強力ライバル登場だ。

 人間との比較における怪獣の巨大さと、超高層ビルとの対比での怪獣の大きさが的確にアクションに生かされている。今回のガメラ自体のデザインには疑問も残るが、ガメラの表情や、首を引っ込めるガメラならではのアクション、徹底的な流血戦といった部分に平成三部作での反省と昭和シリーズへの回帰という主張が鮮明に打ち出され、とにかく痛快。

 そして、クライマックスに用意された赤い石を巡るリレーが不意打ちの感動を巻き起こし、回転ジェットの発現へと繋がる圧巻の高揚感を見せる。怪獣映画のアクションとエモーションが東映映画の遺伝子の導入によって確実に融合を果たした恐るべきハイブリッド作品だ。


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