永遠の人 ★★★☆

永遠の人

永遠の人

  • 高峰 秀子
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永遠の人
1961 スコープサイズ 107分
BS2録画
脚本■木下惠介
撮影■楠田浩之 照明■豊島良三
美術■梅田千代夫 音楽■木下忠司
監督■木下惠介


昭和7年、戦地から帰還した地主の息子(仲代達矢)に犯された小作農の娘(高峰秀子)は恋人(佐田啓二)と引き離され、自殺を試みるが失敗し、無理やり地主の家へ嫁がされる。長男はその事実を知って自殺、次男は学生運動に身を投じ、娘は村に戻ってきたかつての恋人の息子と駆け落ちし・・・約30年間にわたって夫婦は愛憎劇を繰り広げる。

 地主と小作農の階級対立という図式の中で、高峰と仲代の憎しみあいを5部構成の年代記として構成した、ゴシックロマン。ただし、大阿蘇の広大な風景を背景に、松竹的家庭劇に粉飾されているうえに、各部のブリッジにフラメンコが採用され、無国籍な世界観を強調しているので、感知しにくくなっているが。

 図式劇としてはあまりに単純だが、世代を超えて展開する因縁のドラマは見ごたえがあり、高峰秀子も成瀬組ほどの好演ではないのだが、章が積み重なるにつれ、重層的な深みを加えていく迫力に圧倒される。

 木下惠介のトレードマークといえる、ロケ撮影による空気の澄み切った広大な情景の中をキャメラが悠々と横移動するカットがどれも素晴らしく、特にこだわりの雲の表情がモノクロ撮影の陰影のなかで力強く表現されている。木下惠介のドラマは常に空と地面が山の稜線や河原の道などによって綺麗に区画されており、空に浮かぶ雲の情景や激しく流れる雲の動きが心象風景を超えた造形美と強固な主張をもって登場する。木下惠介の描く日本の自然の風景は、確実に日本の自己像を規定しようとする主張であったはずだ。他にも同様の目論見をもった映画作家はあったに違いないが、そのことに最も成功したのは木下惠介に違いないだろう。

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