奇談 ★★★

奇談 プレミアム・エディション [DVD]

奇談 プレミアム・エディション [DVD]

  • 発売日: 2006/05/25
  • メディア: DVD

奇談
2005 ヴィスタサイズ
MOVIX京都(SC9)
原作■諸星大二郎 脚本■小松隆志
撮影■水口智之 照明■奥村 誠
美術■斉藤岩男 音楽■川井憲次
視覚効果■松本 肇
監督■小松隆志


 1972年、幼い頃の神隠しの真相を求めて東北の奥深い村にやってきた女子大学院生(藤澤恵麻)は、隠れキリシタンの歴史と、村のさらに奥に隠れ住む”ハナレ”の存在を知る。聖書異伝「世界開始の科の御伝え」を調査する異端の考古学者稗田(阿部寛)と遭遇した彼女は、村と”ハナレ”を包む大いなる謎に分け入ることになる・・・
 諸星大二郎妖怪ハンターシリーズの傑作「生命の木」を映画化するという大胆不敵な企画だが、助監督を「小さき勇者たち」の特撮班で演出家デビューする金子功が担当していることをみてもわかるように、かなり以前に完成していたようだ。映画自体が相当な低予算で制作され、大した宣伝もないままにひっそりと公開されている現状をみても、物語の基幹部分がはらむデリケートな主題の困難さを再認識させられる。こうした難しい素材に敢えて挑んだ企画者の熱意には、とりあえず感心させられた。
 監督の小松隆志は「はいすくーる仁義」や「スキャンドール」の印象しかないのだが、久々の映画に臨んで相当張り切ったようで、土屋嘉男、堀内正美清水紘治一龍斎貞水白木みのるというキャスティングの壮絶さだけでおなか一杯状態だ。まさに怪優総進撃といった体は壮観なのだが、肝心の演出に怪奇映画らしいニュアンスがないのが致命的な欠陥だ。
 そもそも、ほとんどロケセットという低予算映画で、VFXにしても見るからに安手で、漫画では名場面であるクライマックスの「パライソさ行くだ!」の場面も、原作の持つ肉感を光芒に翻案してしまって、平板なビジュアルになっている。どうも近年の松本肇の仕事は安手なものが多いような気がする。
 そういった低予算のなかで、映画に怪奇映画らしい雰囲気を盛り込もうとすれば、キャメラががんばるしかないのだが、ここでの撮影が光と空間をひたすらナチュラルに把握するだけで、異空間を造形しようとする工夫が無い。東北の山奥の寒村、さらに谷あいの奥地にひっそりと隠れ住む”ハナレ”の光と影に全く怪奇的叙情が漂わないのは根本的な弱点である。正直なところ、照明は希にみる酷さで、クライマックスの大洞窟の場面の照明は、テレビバラエティと見紛うばかりだ。
 そんな空間を映画の世界につなぎとめるために、手練の清水紘治の熱演が要求されたのだろう。実際、常識派の神父が壊れてゆく様を黒バックという演劇的な舞台装置で説得力を持って表現してみせる。1シーンのみ出演の土屋嘉男、堀内正美役不足というところだが、清水紘治は出番が多く、期待に違わぬ見せ場もあるので、ファンは必見だ。これで本田博太郎が出ていれば完璧だったのだが。
 主演の藤澤恵麻はちっともいいと思わないが、妖怪ハンター稗田礼二郎を至って地味に誠実に演じる阿部寛が貫禄十分で好感触だ。
 諸星大二郎の土俗的な画風を実写に置き換えるには、もっと撮影技術的な工夫が必要だが、案外真面目に取り組んでいるから原作ファンも嫌な気はしないだろう。
 欲をいえば、鶴田法男に撮ってほしかったのだが・・・

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