『世界の中心で、愛をさけぶ』

基本情報

世界の中心で、愛をさけぶ
2004/CS
(2004/7/17 TOHOシネマズ高槻/SC7)
原作/片山恭一
脚本/坂元裕二、伊藤ちひろ、行定 勲
撮影/篠田 昇 照明/中村裕
美術/山口 修 音楽/めいなCo.
VFXスーパーバイザー/石井教雄
監督/行定 勲

感想(旧HPより転載)

 結婚を間際に控えた婚約者(柴咲コウ)が行方を消し、その姿を求めて故郷に帰った主人公(大沢たかお)は、高校時代に失った少女(長澤まさみ)との運命的な初恋の追憶に絡めとられて、想いでの街をさまよう・・・

 80年代の追憶の初恋の行方と、主人公と恋人との現在のねじれた関係を交互に提示しながら、追憶を暖系の色彩で、現在を寒色で分かりやすく描き分け、青春映画というよりもメロドラマを狙って、そんなバカな!という大展開を見せるノスタルジックで感傷的な東宝映画。

 長澤まさみが実質上の主演を演じて、堂々たるアイドル演技を見せることからも察せらるように、独立系の製作会社ではなく、本間英行製作のれっきとした東宝映画である。セックスの問題を完全に排除して高校生の純愛を、大林宣彦尾道ロケにあやかって対岸の香川、愛媛でロケし、「また逢う日まで」まで援用しながらひたすら甘美に謳いあげてゆく、ある意味で非常に古典的な商業映画である。しかし、これまでのこうした種類の日本映画で陥りがちなくどさに一定の制約がかかっているところが、行定勲の若さであり美質であろう。

 昨今話題の長澤まさみの演技は、まさにこの年代だけに許される瑞々しく、伸びやかなもので、主人公同様にただじっとその姿を、表情を眺めているだけで幸福感に包まれるのだが、その秘密の鍵を握っているのは、実はこの映画が遺作となってしまった篠田昇の撮影にあるのだろう。実際、篠田昇の流麗かつ美麗なキャメラワークとシネスコの余白を存分に生かしたフレームの劇的効果だけで、この映画を3時間でも4時間でも見続けていたいという気分にさせられてしまうし、実際そうであったら素晴らしいことだろう。

 相米慎二の傑作「ラブホテル」でも見せた埠頭での浮遊するようなキャメラワークがここでも繰り返され、寺田農と速見典子のラブシーンのような雨影が、死者の追想に呪縛された主人公を体育館のなかで包み込む。80年代を描くにあたってこの映画では、大林宣彦だけでなく、相米慎二も避けがたく参照されているのだ。そうした日本映画に対する拘りのありようが、この映画の大きな魅力のひとつとなっている。

 長澤まさみはここで生涯の代表作を得たわけだが、相方の森山未来の不思議に間の抜けた存在感もまたこの映画の宝であって、悶々として故郷を彷徨う大沢たかお柴咲コウの陰気な二人は、若い二人の引き立て役として割を食っているが、これは役得ならぬ役損とでもいうべきものだろう。

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