『狂った野獣』

基本情報

狂った野獣
1976/CS
(2003/2/8 レンタルV)
脚本/中島貞夫大原清秀関本郁夫
撮影/塚越堅二 照明/北口光三郎
美術/森田和雄 音楽/広瀬健次郎
監督/中島貞夫

感想(旧HPより抜粋)

 その昔、独房のように狭隘な安ホテルの一室で14インチのテレビに吸い込まれるようにして観た想い出の映画で、いまだに一部ではカルト映画化しているこの作品だが、改めて見直すと、やはり怪作と呼ぶのが相応しい小品である。

 銀行強盗に失敗した二人組(片桐竜次、川谷拓三)が大覚寺発京都駅行きの京洛バス(架空)をジャックするが、その乗客の中に元テストレーサーの宝石泥棒(渡瀬恒彦)が盗品を抱えて乗り合わせていたことから、主導権を奪って警察の追跡を振り切るために京都市内を暴走してゆく。

 たった70分ほどの小品に3人もの脚本家がクレジットされていることからも相当の紆余曲折が予想される作品だが、仕上がりは極めて単純明快なアクション映画になっている。パニック映画全盛期のことで、ジャックされたバス内の狂乱にも重点が置かれているのだが、そこは東映映画のこと、パニックというよりも、むしろ祝祭空間と呼ぶのが相応しいほどの乱痴気騒ぎが繰り出され、ラストの琵琶湖岸で渡瀬の恋人(星野じゅん)が放つ極めつけの科白「終わっちゃったね、お祭り」に結実することになる。

 近鉄京都駅店の喫茶店で渡瀬を待っている星野じゅんはバイクを実際に運転できるところから起用されたらしいが、恋人の乗ったバスを追跡する場面など、なかなか格好良く、ラストの琵琶湖大橋付近のカーチェイスはさすがにスタントマンが担当しているが、昨今の仮面ライダーなどよりよほど様になっている。この当時ちょっと流行ったバイカー映画なども改めて再発見されるべき時に来ているのかもしれない。

 三上寛の曲名も知らない唄(注釈:名曲「小便だらけの湖」だ!)をバックに、夕焼け(という印象だったが、実際はまだ暮れ始めてもいない)の琵琶湖に新たな祭りを求めて泳ぎ出る二人の姿には、映画自体の完成度を超えて観る者の魂を揺さぶるなにかが込められており、その幾分かは葦の生い茂る湖岸であるとか、水平線のように見えて対岸が確実に存在するといった琵琶湖の地形的条件を基盤として、長年の間に日本映画との間に醸成された癒着関係によるものだろう。(注釈:京都の撮影所で撮影された映画に琵琶湖は欠かせないロケ地で様々な映画にいろんな設定で登場するので、日本の、ではなく、日本映画のマザーレイクなのだ!)

 ちなみに、「スピード」の脚本家はよほどの東映映画マニアらしく、この映画と「新幹線大爆破」のアイディアをほとんどそのままパクっている。これが日米逆なら絶対に著作権訴訟が発生しているはずだ。

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