基本情報
案山子
2001/ビスタサイズ
(2001/12/8 レンタルV)
原作/伊藤潤二
脚本/村上 修,玉城 悟,鶴田法男,三宅隆太
撮影/菊池 亘 照明/近 守里夫
美術/丸尾知行 音楽/尾形真一郎
特殊メイク/ピエール須田 デジタルエフェクト/岸本義幸
監督/鶴田法男
感想(旧HPより転載)
恋人(柴咲コウ)からの不可解な手紙だけを残して失踪した兄(松岡俊介)の行方を求めて妹(野波麻帆)は手紙に書かれた住所の山村を訪れるが、その村は案山子を祀る年に一度の奇妙な祭りの準備に追われる排他的な村民が住む村だった。兄の恋人の父親(河原崎健三)から彼女が療養所で死んだことを知らされ、すぐに村を出るように諭されるが、兄の行方を探るうち、恋人の死の真相と奇妙な村人たちの行動の慄然たる意味を目撃することになるのだった。
鶴田法男お得意の心霊実話テイストの恐怖演出を期待すると肩すかしをくらわされることになるが、れっきとした怪奇映画の秀作で、「リング0」よりも鶴田法男が今後目指そうとする方向性を明確に指し示していると思われ、彼のフィルモグラフィにとっても記念碑的な作品であるはずの作品。
ここで目指されているものはモダンホラーが出現する以前の60~70年代の抒情的怪奇映画であり、さらに即座に相米慎二を想起させる長廻しのファーストシーンから豊かに香り立つ映画そのものの香気を掴み取ることにあったはずで、晩秋の山間ロケが日本の怪奇映画には類い希な抒情性を産み出している点だけでも特筆に値する。
相当な紆余曲折を経て完成された脚本はいささか説明不足で奇怪な事件の整合性が確保されていたのかどうか怪しい部分も多々あるし、恐怖演出はむしろ副次的なものに思われるほど淡泊なものであり、そうした意味で肩すかしな部分があることも否定できないが、それでもこの映画の表情の細部に脈々と息づいているのは紛れもなく怪奇映画の遺伝子そのものである。
それは、柴咲コウの両親を演じる河原崎健三、りりィのキャスティングの見事さであり、神代辰巳の忘れがたい怪作「地獄」の逆回転する鉄輪に想を得たと思われる巨大な風車の回転であり、まるで山本迪夫の常連俳優である二見忠男のようにヒロインの前に無愛想に登場する有園芳記の存在であったり、数え上げればキリがないのだが、あるいはこの映画においてもっとも重要だったのはヒロイン野波麻帆の起用だったかもしれない。
この映画は明らかに野波麻帆を愛でるアイドル映画としての側面を兼ね備えており、たったひとりの兄を求め想い続ける異常な愛の姿が事件の背後に浮かび上がってくるとき、東宝シンデレラは性的な存在として息づき始める。野波麻帆のエロティシズム、これもまたこの映画の怪奇映画としての正当性の証しである。彼女は兄との盲目の愛に殉ずるために敢えてマタンゴの島のごときあの村に戻ることを選択するのだ。